第10章 不測の事態
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
大「おっと、今日は随分と風が強い日だな」
たまたま事務所に来ていた大和くんに手伝って貰いながら、スチールラックの入れ替えをする。
「風に煽られたりしないように気をつけないとね」
じわりと滲む汗を拭いながら声をかければ、大和くんが俺の顔をマジマジと見つめてくる。
「ん?俺の顔に何か付いてる?それとも、イケメン過ぎて···とか?」
冗談混じりに言いながら大和くんを見れば、大和くんはちょっと困ったような顔をしながら、また俺を見た。
大「万理さん、さ。それって」
大和くんの視線がどこを見ていたのか気がついて、さり気なく風に煽られた前髪を正す。
「数年前に、ちょっと···ね」
大「何年も経ってるって、じゃあ相当なケガをしたったことか?」
「まぁ、そんなとこ。あ、この傷跡のことはオフレコで頼むよ」
大和くんにそう言うと、だから前髪を下ろしてたんだな···と返ってくる。
「別に俺は男だし、こんな傷跡くらい隠してるつもりはないけど···でもほら、こういう髪型って似合ってるじゃん?」
大「出た出た···ま、オレも口外するつもりはないから心配しなさんなって」
「ついでに言えば、俺はきっとスキンヘッドにしてもモテモテだと思うけど?」
大「あ~、はいはい分かったから。早いとこコレ運んじゃおうぜ?」
「お手伝い、よろしくお願いしまーす!」
ひとつのラックを、大和くんと両方から持ち上げて運び始める。
本当は、傷跡を気にしてない訳じゃない。
ただ、あからさまに見せるような代物でもないし、きっとこれを見れば愛聖が悲しそうな顔をするだろうから。
前に1度チラッと見られた時が、そうだったから。
あれから随分と経つのに、まだひと目見れば分かるほどの傷跡···
これを負ったのが、千···お前じゃなくて良かったと思うよ。
もし、千だったら。
そう思うだけで、俺は···愛聖が言うところの粋な神様を一生恨んでいたかも知れないから。
だから、俺で良かった···そう、思うから。
大「ところで万理さん?手伝いの駄賃って、何くれんの?」
運びながらニヤリと笑う大和くんに苦笑を見せながら、王様プリンなんてどう?と提案すれば、それで喜ぶのタマだけ!と笑う。
仕方ない。
後でコンビニに行ってくるかな?