第10章 不測の事態
❁❁❁ 千side ❁❁❁
万「こんばんはー!Re:valeです!」
いつもの様に万が話し出し、客席から万を目当てにライヴを見に来てる女たちの声が上がる。
万「今日の1曲目は···」
万が曲名を言って、イントロが流れ始める。
僕と万がそれぞれのパートを歌って、メインのサビを歌い出したところで···
僕たちの曲を切り裂くように大きな音がして、曲が止まる。
途端にギャラリーが静まり返り、直後···それは多人数の悲痛な叫びを呼び起こした。
いったいなにが···そう思って隣を見れば。
そこに当たり前のようにいるはずの姿はなく···代わりに見えたのは、倒れた万と、その向こう側には割れ広がる照明と···
「万···」
ピクリともしない万を、僕もそこから動けないままで···ただ、傍観してしまう。
ジワジワと少しずつ床に広がり出す赤いシミに、ことの重大さが漸く伝わって来て。
「万!···しっかりしろ、万!!」
マイクを放り投げ万に駆け寄り片膝をつく。
「万!!」
ぐったりとしたまま動かない万を抱き起こせば、それを阻もうと僕の体を拘束する···誰か。
百「動かしちゃダメだユキさん!いまスタッフの人が救急車呼びましたから!」
···モモ?
「離せ!万が···万が!!」
百「ユキさん!!ダメだってば!」
「うるさい!···万に触るな!!」
やがて救急車のサイレンが聞こえ、バタバタと慌ただしく人が入って来て万を連れて行ってしまう。
「万を連れて行くな!万を返せ!···万!!」
羽交い締めにされながらも万を取り戻そうと必死に腕を伸ばすも、それは万に届く事はなく···万を呼び続ける僕の声も届く事もなく、俯いて···目を閉じた。
···また、この夢か。
息苦しさで目が覚めて、ボンヤリと見える部屋の感じ。
人の気配がする方にゆっくりと顔を向ければ、そこには僕の手を包んで座り込む小さな影。
『···千』
「愛聖?···どうした?なんで泣いてるんだよ」
包まれた手を包み返しながら見れば、愛聖の頬を1粒の雫が伝う。
指先でその1粒を払ってやれば···
『いつか、その日が来たら···怒っていいから』
また新しい雫をほろりと零しながら愛聖が僕を見つめた。