第10章 不測の事態
社長が電話を終えるのを待ちながら、この先どうしたらいいのかを悶々と考えていた。
番号を変えてしまうのは簡単だけど、この番号は···どうしても手放したくはなかった。
だって、この番号は···唯一、私が父さんとの繋がりのあるものだから。
中学生になって初めてスマホを持たされる時、母さんが机の引き出しから古い型の携帯電話を出してきて、亡くなった父さんが使っていた物だと話してくれた。
物心着く前に亡くなってしまった父さんの形見として、母さんがずっと大切にしまっておいたんだって聞かされた。
いつか私がそういう時期に来たら、父さんの思い出が薄まらないようにしようって、ずっと料金を払い続けていたんだって。
その電話を私の名義に書き換えて、番号がそのまま使えるように手続きをしてくれて。
だから、そんな母さんの思いも、父さんの思い出も···手放したくはない。
···絶対に。
小「じゃ、何かあったら···ハハッ···でも、ありがとう八乙女。それじゃ」
話の途中で悪かったね、と社長が私たちに言いながらジャケットのポケットにスマホをしまう。
小「電話の相手は、もう分かってると思うけど八乙女だったよ。TRIGGERの九条天くんから知らされて、どうなってるんだ!と僕に」
『すみません···お騒がせしてしまって』
小「全然?むしろ八乙女は、僕が頼りないからこんなことになるんだって長々と小言を聞かされただけだから」
さすが大きい事務所は情報が早いねぇ~なんて言いながらも、この現状をどう回避すべきか考えないとだね?と社長が目を閉じた。
万「それなんですけど、社長。まずこれを見て下さい」
私たちにパソコンの画面を向けた万理が、次々と動いていくコメントの流れを見せる。
小「これは···酷いね」
ポツリと呟く社長が、画面を凝視する。
万「勝手な事かな?とは思いながらも、発信元を追いかけて見たんですが···なんせ情報量の流れも早くて誰が最初に愛聖の電話番号を流したのかまでは掴めませんでした」
『万理···』
万「でも、サイトの運営にはウチの名前を出してすぐにでも全削除をお願いしてあるので、じきに消えると思います。ほら、ちゃんとそういった内容の返信がさっき届きましたから」
小「さすが我社の有能事務員だね。万理くん、仕事が早い!」