第10章 不測の事態
一「私は別に、怖がらせようとしてる訳じゃありません。ただ、佐伯さんが前に所属していた事務所の事を考えたら、その可能性もあるのでは?と言いたいだけです」
一織さんが言いたいこともわかる。
八乙女社長が逢坂さんと四葉さんを引き抜こうとしていた事もあるから、もしかしたら私が向こうにいる時···私が知らない所でなにかが起きていてたとしてもおかしくはない。
だけどそれなら、どうして今このタイミングで?
二階堂さんや一織さんが言うように、嫌がらせや恨みが···となれば、私が再出発した時にアクションが起こっても不思議ではないし。
誰かがスマホを落として、そこに私の連絡先が···とも考えられるけど···そうそうないよね、そんなこと。
万「お邪魔しまーす!」
バタバタと廊下を歩く足音と共に、万理が現れる。
大「お早いお着きだこと···とか、言ってる場合じゃないな」
万「三月くん、連絡してくれてありがとう。社長には俺から連絡しといたから。それより愛聖、三月くんからも聞いたけど、どうなってるんだ?」
ジャケットを脱いで椅子に掛けながら、万理が詳しく話を···と顔を覗く。
『万理···それが私にもよく分からなくて。だけど、明け方からずっと、こんな感じで···』
テーブルに置かれたスマホを指させば、音を切った為か、切れてはまたといった具合いにいつまでもブルブルと振動していた。
万「なるほどね···で、明け方からってのは、正確には何時くらい?」
『私が最初に電話を取ったのは夜中の3時前位だったと思う。スマホの音で目が覚めて、いま何時だろうって時間を見たのがその時間だったから』
三「お前、そんな時間からずっと耐えてたのか?!···誰か起こせば良かったのに」
『そんな時間だったから、誰にも言えなかったんです···』
大「ま、そりゃそうだろうな。そんな時間に起きてる可能性があるのはナギ位だろ」
ナ「YES!まじこなタイムしてました!」
三「つーか寝ろよ!」
そんな会話を聞きながらも、私はまた着信を続けるスマホの画面を···ずっと見ていた。