第10章 不測の事態
環「まだ休憩だよな?じゃ、さっきのやつやってみようぜ」
ボードを指さした四葉さんが、ちゃんと教えるからやってみろよと私を誘う。
環「ちゃんと支えるし、多分、大丈夫」
壮「そしたらご褒美あげなきゃだよ、環くん」
環「なんで?」
壮「環くんだって、早く歌詞覚えたりしたら大和さんが王様プリン買ってくれた事があったよね?」
ご褒美か···と真剣に考え出す四葉さんに、気にしなくて大丈夫だからと言ってボードに足をかけた。
支える為にずっと手を繋いでいる四葉さんに安心感を覚えながらボードをゆっくりと滑らせ···
環「マリー、そこで重心移動」
『こう、かな?』
隣で指示をくれるやり方に習えば、なんの難しさもなくクルリと向きが変わった。
『···出来た!』
そのまま元の場所へとボードを滑らせながら戻り、逢坂さんのいる場所で止まった。
環「な?簡単だろ?」
『でもいまのは四葉さんが支えてくれてたからだから。私だけじゃ、きっと出来なかったと思うよ?』
壮「それでもちゃんと出来たんだから、問題はないよ」
環「だよな?んじゃ、マリー···ご褒美なにがいい?」
セットの端に3人で腰を下ろせば、四葉さんがドリンクを飲みながら約束したんだしと逢坂さんと笑顔を見せる。
ご褒美って言われても、意外と思いつかないものだと考えながら···
『そうだ!こういう時のご褒美って、ほっぺにチューとか!』
私が言った後の2人の驚く顔を見て、冗談だよと言おうとして顔を上げた、その瞬間···
フワリと空気が動いて、両頬に触れる柔らかな感触に硬直する。
『う、うそ···?!』
「「 だって、ご褒美だから 」」
たちまち熱くなる頬を押さえて、そして···パタパタと扇ぐ。
『こんなご褒美あるなら、この後の撮影は···もっと頑張れそう』
照れながらも笑って言えば、そしたらまたご褒美だな?と四葉さんが笑う。
それからすぐ休憩が終わってしまい、四葉さんと逢坂さんは紡ちゃんと先に事務所へ帰って行った。
万「いやぁ~···青春っていいねぇ。見てる俺も、なんか照れたよ」
そう言って笑う万理に、万理の青春は遥か彼方じゃない?と言って私も笑って、監督の集合の掛け声に呼ばれて擽ったい気持ちを胸に秘めながら、残りの撮影に挑んだ。