第10章 不測の事態
『よろしくお願いします!』
元気よく挨拶をして、セットの立ち位置へと移動する。
少しだけ開けられたドアから万理が入って来るのが見えて、なんとなくリテイクを重ねているのを知られるのが恥ずかしくて視線を外す。
「カメラ回しまーす!3・2···1···」
カウントダウンが終わってカメラが回り出す。
私はボードを抱き抱えて遠くを見たり、空を仰いだりしながら···ふと、視線を感じて振り返る。
その視線の先には、会いたくても会えなかった人がい···え?!
四葉さん?!
カメラが回っていることは分かっていても、想像もしていなかった人の姿に表情が止まる。
カメラスタッフの後ろから、ひょこっと顔を見せているのは間違いなく四葉さんで。
驚きで止まってしまった表情が、嬉しさと、恥ずかしさでふんわりと緩んでいく。
ジッと見つめ続けて視線が合ったかのように思えた瞬間、私は自然と笑顔になっていた。
「カッート!!今の凄く良かったよ愛聖ちゃん!!じゃあ、ご褒美にちょっと休憩入れようか」
『はい!ありがとうございました!』
監督の声に誰よりも早く反応して、セットの中から飛び出し駆けていく。
目指すべきは、もちろん···四葉さんの元へ。
『四葉さ···ぅわっ!』
脇目も振らずに駆けていたせいで、床に広がっていたコードに引っ掛かり···
壮「危ないっ!」
万「愛聖?!」
周りが一瞬ヒヤッとする緊張感の中で、私は床とご対面···ではなく?
環「おぉ···ナイスキャッチ、俺」
しっかりと四葉さんに抱きとめられていた。
『すみません···そそっかしくて』
万「ホントだよ···いまのはさすがに俺もヒヤッとしたからね」
ハァ···と大きく息をついた万理が、コラ、と言いながら頭にぽんっと手を乗せた。
環「つうか、監督に褒められてよかったじゃん?」
『あ、そうなんです!四葉さんのおかげです!』
環「俺なんもしてないけど?」
なんのことだ?と考え出す四葉さんに、ここまでのいろいろな事を話してあげる。
みんなと練習してたことや、お互いのスケジュールの都合ですれ違ってばかりだったことも。
環「まぁ···そーちゃんが教えてたってのは、そーちゃんから聞いてた。気にはなったけど、遅刻するとそーちゃん怒るし」