第10章 不測の事態
なんか、イマイチ上手く感情が運べないなぁ。
そんな考えが顔に出てしまったのか、また監督からリテイクが出てしまう。
「愛聖ちゃん、今日どっか調子でも悪いの?こんなにリテイクするの珍しいよな?」
『すみません···体調が悪い訳じゃないんですけど。スタッフの皆さんもごめんなさい!もう1回よろしくお願いします!』
膝に頭が付きそうなほどにお辞儀をして、何度も撮り直しになってしまったことを謝った。
「愛聖ちゃんさ、ちょっといいか?」
ため息を吐きながら監督が私を手招く。
これは···結構、怒られるかも···
そう思いながら重くなる気持ちを無理やり持ち上げて監督の元へと急ぐ。
「いま撮ってるカットはさ?運動苦手な女の子が、思いを寄せる男の子がカッコよくスケボーをする男の子を見かけて自分も同じように乗れたら···って思って一生懸命に練習して、やっと上手く乗れるようになった」
『はい···分かってます···』
「で、やっと上手く乗れるようになったのをきっかけに、その子に近付きたい。けど、そんな時に限ってなかなか会えない」
『それも、分かってます···』
分かってるけど、それをどう表現したらいいのかが手探りだらけで···
「分かってるなら、ヒントをやろう。会いたいなぁって思ってる時、カメラの向こうからその本人が現れたら···どんな気持ちになる?」
会いたくてもなかなか会えなかったのに、そんなタイミングで本人が現れたら···
『それは、きっと···あっ!』
思わず声が出てしまい、慌てて口を押さえる。
そうか···そうだよね!
もし今の状態なら、きっと···きっとそうなるよね!!
『監督、凄い素敵なヒントありがとうございます!』
「よし、じゃあ今度はイケそうかな?」
ニヤリと笑う監督に大きく頷いて見せて、私なりのイメージを思い浮かべる。
もし、私なら。
どれだけ転んでもなかなか上手くならなかったのに。
それでも上手く乗れるようになるのを見て欲しくて頑張って練習して来た。
少しずつ乗れるようになって、転ばなくなって。
そんな姿を私は···四葉さんに見せたい。
それと···同じなんだ···
漠然としていたイメージが、霧が取れてハッキリとしたイメージへと変わる。
大丈夫、ちゃんと出来る!