第10章 不測の事態
『でも、どうしてもスタントとか使わないで、自分で乗れるようになりたいんです!』
「そうは言っても転んだりしたら元も子もないでしょう。完治に近くなったと言うのは、まだ完治してないって言うことくらい分からないんですか?!」
驚きのあまり、つい口調が強くなってしまい···佐伯さんがシュンとした顔を見せた。
三「まったく一織は···どうしてそういう言い方しか出来ないんだよ。オレもいま聞いてびっくりしたけど、万理さんが着いてんなら危なくはないんじゃねぇのか?」
「そうかも知れませんけど、大神さんは些か佐伯さんに甘過ぎる所もありますから」
これまでの様子を思い起こしてみても、大神さんは佐伯さんを窘めながらも、結局は甘やかす方向に···というのがほとんどでしたからね。
きっと大神さんも、どうしても!お願い!とか言われて、仕方なくケガが治ったらね?なんて甘い言葉でその場を凌いだに違いなさそうです。
『でも、乗れるようになりたいんです···私』
「そうは言っても、なにも経験がなくケガも治りつつあるのに···賛成出来ませんよ」
大きなため息を吐いてみせて、せめて完全に完治してからにしたらどうかと提案するも、それじゃ撮影に間に合わなくなると言って佐伯さんは眉を下げた。
三「あ、いい事思いついた。愛聖、万理さんは教えてくれるって言ったんだろ?そしたら万理さんが付き添ってる時以外はスケボー乗らない、どうしても練習したかったら、寮でヒマしてる誰かにも頼む。絶対に1人で練習しないって約束はどうだ?」
「私たちの中に、教えられるほどの腕前を持っている人がいるんですか?」
三「それはわかんねぇけどさ、乗れないとしても支えてやるくらいなら誰だって出来るだろ?」
大神さん以外にも、甘過ぎる人間がここに···
「仕方ありませんね。そういう約束が出来て安全が確保されるなら、佐伯さん···いいんじゃないですか?」
兄さんに諭されて賛同してしまう私も、佐伯さんには甘めだという事ですか···
『やった!早く乗れるように絶対頑張りますから!』
「言っておきますが、頑張って頂きたいのは乗れるようにではなく、ケガを増やさないって事ですからね」
ツンとした態度で言いながらも、その口元は緩んでいる事に気が付かなかった。