第10章 不測の事態
事務所に衣装のサンプルが届いたから試着しに来て?と社長に言われて、事務所の空き部屋で試着して姿見の前に立ち、右や左に体を向けては、複雑な気持ちになる。
私これ、大丈夫かな···?
なんかちょっと、というか、思ってたよりスカート丈が短いような気もするけど、スタイリストさんの見立てなら、そこはまぁ···いいとしても。
セーラー服···とか。
打ち合わせで配られた資料に記載されていた時点で、セーラー服?!とかは思ってはいたけど。
実際に試着してみると、ちょっとNGに引っかかってしまいそうな気もして落ち着かない。
この姿見せたら、絶対···二階堂さんにはニヤつかれること確定かも。
微妙な感じで息を吐き、社長室のドアをノックした。
『社長、試着してみました』
どうぞどうぞ?と楽しげな声が聞こえて、そっとドアを開ければ、デスクワークしている手を止めた社長が私を見みて目を細めた。
小「まだまだ現役と言ってもバレない位、よく似合ってるね」
『そうでしょうか···セーラー服だなんて着た事がないから不安です』
小「あれ?学生服はブレザータイプだった?」
『そうじゃなくて···その、いわゆるコスプレだと、言われないかなぁ···なんて』
まぁ、中学も高校も、ブレザータイプだったことには間違いはないんだけども。
紡ちゃんは···どうだったんだろう?
社長の反応からしてセーラー服に見慣れてる感じがするような気がしないでもないでもない。
まさか···その類のお店に行ったことが?!
なんて、声に出したら怒られそうだよね。
小「セーラー服はいつの時代でも可愛らしい制服だね。似合ってるんだからいいんじゃない?万理くんにも見せてあげたら?」
『なんで万理?!···ですか?!』
小「だってほら、前にも言ってたじゃないか。万理くんとは子供の頃からの付き合いだって。見せてあげたら喜ぶと思うけどなぁ?セーラー服は男のロマンが溢れてるから」
···ロマンってなに?!
やっぱり社長は怪しげなお店に?!
じょ、常連客だったりしたら···ちょっとイヤかも···
でも、それ以前に紡さんとふたりで生活して来たんだから、そんな怪しげなお店には通うヒマなんてなかったよね?
···と、信じたい。
『とりあえず万理には恥ずかしいから見せるのやめまときます。絶対、笑うと思うので』