第10章 不測の事態
顔色ひとつ変えずに言えば、奏音と名乗る人物はハッと息を飲んだ。
「新人って言ってたけど、それは今の事務所での新人でしょ?本当は少し前に、この世界でちょっとだけ活動はしてた。名前は確か···」
奏「その名前は···捨てました。確かに九条さんの言う通り、ほんの少しだけ私は別の事務所に在籍してました。けど、今は新しい自分になって奏音という名前で生きてます」
やっぱり、ボクの気記憶は間違っていなかった。
彼女のいう前の事務所っていうのは、ウチの社長に潰された小さな事務所で。
そこにはデビューしたばかりの彼女を筆頭に、ごく僅かなタレントが在籍していた。
そこの代表者が愛聖を引き抜こうと裏工作をしているのがウチの社長にバレて、徹底的に潰された。
そんな彼女が、愛聖に近付いてなにをするつもりなんだろう。
「ねぇ、愛聖と仕事で一緒になるって言ってたけど。愛聖とは仲良くなれたの?」
穏やかに聞けば、さっきの話は水に流されたと思ったのか彼女は表情を明るくした。
奏「はい、とっても。先日、打ち合わせの後にお話させて頂いた時、連絡先の交換までしたんです」
楽「それって、愛聖とか?」
奏「もちろんです。Re:valeのおふたりは、あまり良く思ってくれてないようでしたけど」
···あのバカ。
今度会ったら、また説教してあげないといけない事が増えたんだけど。
龍「愛聖はいい子だろ?優しいし、ちゃんと話を聞いてくれたりとか」
「龍は黙ってて···愛聖と連絡先の交換したなら、アドバイスは愛聖から貰うといいんじゃないかな?愛聖なら同性だし、ボクからアドバイスがしてあげられるとしたら、それくらい」
その前に、ボクから愛聖に···忠告する事が出来たけどね。
「それもそうですね!すみません、お時間取らせてしまって。ありがとうございました!」
大した話は出来てないのに満足したのか、それとも早く立ち去りたくなったのか分からないけど、最後に笑顔を見せて立ち去って行った。
楽「なんだったんだ、あの女」
「さぁ?でも、ひとつ分かった事があるよ」
龍「分かった事って?」
「後で話す。とりあえず楽屋に戻ろう、ボクにはやらなきゃいけない事が増えたからね」