第9章 ふたりぼっちのスタート
『別の事務所からスタートしても、自分が目指す物に進めたなら結果的には良かったんじゃないかな?私はいろいろあって、今は八乙女プロダクションではないけど、それでも現状に不満はないよ?』
「それは佐伯さんが恵まれてるからですよ」
微笑みながら言う彼女に、どこかしら陰りを感じてしまう。
もしかしたら、なにか悩んでたりとかするのかな···
さっきの自己紹介の時にも、このCMの仕事が初めての仕事なので···とか言ってたし。
『あの、もしかしてなにか···仕事のことで悩んでたりとか?』
「···まぁ、はい」
千「これが初仕事だって言ってたのに、悩むもなにもないだろ」
『千!』
席は空いているのに座ろうとしない千を不思議に思いながらも、冷たく言い放つ姿につい口調が強くなってしまう。
『私もまだまだ駆け出しだけど、私で良かったら話を聞いてあげるくらいは出来るから。撮影の時になにかあったら話してみて?』
百「撮影の時って言ってもさ?オレたちとマリーは別の場所で別撮りじゃん?」
『あ、そうだった···』
じゃあ、どうしたらいいかな···なんて話していると、彼女があっ!と小さく声を上げた。
「あの、もし···宜しかったら···ですけど。連絡先とか交換して貰えませんか?そしたら撮影とか関係なく連絡出来るので」
『その方法があった!じゃあ···私の番号は、』
千「愛聖、ちょっと待って。ひとつキミに聞くけど、そっちの事務所はマネージャーになんの相談もなく他の事務所の人間と連絡先交換してもいいとか、そういう教育方針?しかも、憧れてるだとか、悩み事があるだとか、そういう切り口で」
千?
「わ、私は別に···純粋に悩み事とかの相談をって···」
千「僕にはそうは見えないんだけど?」
『千、連絡先交換するくらい小鳥遊社長だって大丈夫だと思うよ?新人さんだったら交友関係は広い方がいいでしょ?私だって百ちゃんには負けるけど、それなりに連絡先交換してる人はいるし』
とは言っても、大概は仕事関係の連絡をするのみに使ってただけの人がほとんどだけど。
『それに、女の子同士じゃないと分からない気持ちとか考えとかもあるよ?』
「それじゃあ、いいんですか?」
『もちろん!あ、いま交換しちゃお?』
スマホを出してお互いの連絡先を交換する。