第9章 ふたりぼっちのスタート
『それで、私に用事って?』
入れ直された私のコーヒーに口をつけながら、話題を振る。
口に含んだコーヒーは、とても苦い味がして。
『千、これ苦いよ?お砂糖入れた?』
涙目になりながらも言えば、ちゃんと入れたけど?と千が私からカップを取ってひと口飲む。
千「甘いけど」
『私には苦いの!お砂糖もうひとつ追加して欲しいなぁ』
千「はいはい」
シュガーポットの中から千が角砂糖をつまみ出してカップに落としかき混ぜ、またひと口飲む。
千「···甘すぎる」
『私にはそれでいいの!もうカップ返してよ、減るから』
千からカップを奪還して、私もひと口飲む。
『まだ苦い気もするけど、飲めなくはない』
千「うそだろ···」
クスクスと笑う千にベーっと変顔をして、またカップに口を付けた。
「仲良し、なんですね。おふたりとも」
神妙な顔をしながら、私たちを見る。
百「ユキだけじゃなくてオレも仲良し!もうラブラブ!」
『わっ!!ちょっと百ちゃん危ないって』
隣に座っていた百ちゃんが急に私を抱き寄せ顔を寄せるのを、されるがままの状態で、めっ!と制する。
千「モモ···僕がいるのに···」
百「ダーリンごめん!オレはダーリンともラブラブ!」
また始まったよ。
『夫婦漫才の2人はほっといて、私は昔から千や百ちゃんを知ってるから···かな?』
千「そうだね。僕は愛聖が鼻を垂らしたランドセル姿の頃から知ってるから」
『鼻は垂らしてないよ!』
百「じゃあ、なにを垂らしてたの?」
『なにも垂らしてないから!···まったくもう。夫婦漫才に私を巻き込まないの!アホだと思われるでしょ!』
お返しとばかりにアホだと攻撃すれば、それはそれで千たちも笑う。
「私···八乙女プロダクションにいる時から佐伯さんの事を憧れていて。何度も八乙女プロダクションのオーディションを受けたんです」
カタン···とカップを置いて話し出す彼女に、そうなの?!と私も耳を傾ける。
「そうなんです。でも、何度も受けても不合格で···それで今の事務所の人に声をかけられて、今に至る、みたいな」
八乙女プロダクションって、オーディションなんてやってたかな?
大概はスカウトだったと思うんだけど···
疑問に思っても、私が知らないだけかも?と言葉にしなかった。