第9章 ふたりぼっちのスタート
千たちの部屋に着いてすぐに、ドアがノックされた。
百「オレが出るよ···どうぞ、ってさっきの···今ちょっと来客中だからさ、用事なら他の日に、」
「あの、いま佐伯 愛聖さんがいらっしゃると思って···私、佐伯さんとお話がしたくて来ちゃいました···ご迷惑でしたか?」
···私と?
百「でも今は、オレたちと···」
ムリに追い返そうとする百ちゃんの横にたち、それを止める。
『百ちゃん、私に用事がって来てくれたんだから。ここはRe:valeの控え室だし、私が外に出れば問題ないでしょ?』
百「だけどさ···」
なにか言いたげな目で私を見る百ちゃんに、それでもせっかくだからと言ってドアから出ようと足を踏み出せば、不意に肩口を掴まれてそれが阻まれた。
千「待った。僕たちが女性を外に追い出すとでも思ってるの?それに、疚しい内容じゃないなら、僕たちが同席してても問題ないだろ?」
いつに泣くトゲのある言い方をしながらも、相手が女性だから千なりの営業スマイルを彼女に向けた。
「別に疚しいなんて···ただ、私は佐伯さんのファンで、佐伯さんのような女優になりたくてこの世界へ入ったんです。だから今回ご一緒出来たのが嬉しくてお話したいなって···」
『ほら千?そんな警戒しなくて大丈夫だから。ごめんなさい、千は昔から人見知りが酷くて』
ね?と冗談を交えながら千を振り返れば、千は変わらず営業スマイルを崩すことはなかった。
『部屋主のお許しも得た事だし、私が言うのも変だけど···どうぞ?』
ドアを広く開け入るように促すと、遠慮がちにペコリとお辞儀をして彼女が室内へと入って来た。
『特別なおもてなしは出来ませんけど、コーヒーくらいなら』
千「それを愛聖が言うのか」
『いいじゃん別に。ほらマスター?お客様なんだからコーヒーひとつお願いします』
インスタントなんだから飲みたければ自分で入れれば?なんていう千を肘で突っつきながら、早くね?と視線で促す。
けど、ふと···思う。
もしかしたら彼女は、本当は私ではなくてRe:valeに会いに来たんじゃないか?と。
マネージャーも付けずに1人で出歩くなんて本来はしないはずなのに。
···人のことは言えない立場ではあるけども。
まぁ、いっか?