第9章 ふたりぼっちのスタート
打ち合わせの間、しばしばチクリとする視線を感じてる度に、さり気なく顔を上げて見れば···
あ···またこっちを見てる···
打ち合わせが始まって、自己紹介の時も、なんだかおかしな感じで見てた···ような気がする。
そういった先入観はよくないけど、もしかして私、自分が気付かないうちに何かしちゃった···っていうのはない?よね?
彼女と顔を合わせるのは今日が初めてだし。
あ、でも···百ちゃんがさっき言ってた事を考えたら、ずっと大好きで憧れてそれで追っかけてた人が女の子と仲良くしてたらイヤな気持ちになる···とか、そういう類のかな?
そうだとしたら、私も少し気をつけないとだなぁ。
これから少しの間、別バージョンとはいえ一緒のCMでお仕事するんだから。
クライアント企業や撮影スタッフに迷惑かけることは絶対ダメだから。
配られた資料を捲りながら、各バージョンの設定を読む。
···え?
私の方のバージョンって、これ私で大丈夫かな?!
読み進めて行けば、そこにはまだラフ画ではあるもののCMストーリーの流れも印刷されている。
高校生の設定で、さわかやなフレーバーの飲料水を飲む···って。
過去の作品は実年齢より上とか、年相応の役柄がほとんどだったけど。
実年齢より下のって、初めてかも。
しかもセーラー服···ウソでしょ···???
衣装を着た自分を想像してみる···けど。
···なんか、二階堂さんあたりはニヤニヤ笑いながらCM見そうな感じだよ、これ。
実際の高校生でもある一織さんなんかは、厳しい言葉を貰いそう。
なんだか撮影前から凄い不安になってきたかも。
逆に千たちのバージョンは、同じフレーバーの飲料水でも大人でもさわかやに飲める···とか?
あの新人さんって、私と変わらない年だったから絶対そのものは良さそうだけど。
社会人と高校生···この人選って、いったい誰が決めたんだろう。
···なんて、考えてる場合じゃないか。
仕事は仕事。
頂けた仕事をきっちりこなすのが私たちの最優先だから。
セーラー服か···高校生って事はメイクも素顔に近いって事だよね?
今日からでも、お肌の手入れは念入りにしておかないとなぁ。
エステとか言った方がいいのかな?
そんな事を考えながら、監督の説明に耳を傾けていた。