第9章 ふたりぼっちのスタート
❁❁❁ 千side ❁❁❁
モモがトイレ行ってくる!と行ってからすぐ、入れ替わるように控え室に誰だか分からない女を連れたどこかの事務所の人間が訪ねてきた。
はっきり言ってモモがいない時に、こういうのは···困る。
「あの!今回のCMでご一緒させて頂くことになりました。よろしくお願いします!」
「···そう」
「すみません、我社の新人な者でまだ右も左も分からずお手間をおかけする事も多いと思いますが、ひとつよろしくお願い致します」
「そうね···」
ここまではなんとか会話が成立した···と、僕なりに思ったけど。
なにより困るのは···
「私、ずっと前からRe:valeさんの事を追っかけてたんです!凄い好きです!」
これ。
モモ···頼むから早く戻ってくれ。
こういうのって、僕よりモモの方が慣れてるのに。
挨拶だけなら、さっさと帰ればいいのに。
百「ユキ、お待たせ!トイレでプロデューサーと会ってさぁ!···って、あれ、お客さんだったのか」
···助かった!
「モモ。今回のCMで共演するらしいよ」
百「えっ?!そうなの?!···マリーじゃないんだ···」
「モモ?」
「えっ···」
百「あーっ、ゴメンゴメン。とりあえずよろしくね!」
愛聖と一緒に···とか思ってたのは僕も同じだけど、本人を目の前にそんな事を言ったらダメだってモモはいつも僕に言ってたのに。
「あの、さっきユキさんにも言ったんですけど···私ずっとRe:valeの事を追っかけしてたんです。まだデビューするまえからライヴにもよく通ってました!」
デビューする、前···から?
彼女の何気ないひと言が、チクリと刺さる。
百「そうなの?それは嬉しい!ありがとう!」
手放しで喜ぶフリのモモをチラリと見ながら、ひとつ息を吐いて彼女に向き直る。
「ねぇ。Re:valeがメジャーに出る前からライヴに通ってたって、本当?」
「はい!初めて友達に誘われて行った時、Re:valeのステージを見たんです!ユキさんもモモさんも、キラキラとしてて···素敵でした!」
「···そう。じゃあ、本当のRe:valeは···知らないんだね」
百「ユキ!アハハ···ゴメンね、ユキは忙し過ぎて疲れてるのかも」
刺々しくなる僕の前に立ったモモが、愛想笑いで取り繕う。