第2章 7つの原石
社長室で待つ様に案内され、誰もいない内にどうぞと言われて涙で崩れたメイクを直す。
ここへ通されるまでは特に誰とも会わなかったけど、ここから先は誰に会っても平気なようにきちんとしておかないと。
···特に、万理。
今日までの間、万理が仕事で家を開けている時は私が急に居なくなったりしないように手が開けば電話やラビチャが来てたから。
それに今日、小鳥遊社長と一緒に八乙女プロダクションへ行く事も知ってるし。
泣いた事が分かれば、また心配されてしまうから。
小「入っても大丈夫かな?」
軽くノックされたドアの向こうから声をかけられ、返事をして立ち上がる。
小「万理くんを連れて来たよ。一番最初に、万理くんに会いたいんじゃないかと思ってね」
『はい···あ、いえ』
万「え、どっち?!」
素で答えてしまって慌てて誤魔化すと、万理は笑いながらもツッコミを入れてきた。
万「とにかくお疲れ様。そして、佐伯 愛聖さん、小鳥遊プロダクションへようこそ」
小「まだ契約はこれからだけどね?」
そうでした···と苦笑を見せる万理に、小鳥遊社長が話を進める。
小「それで細かい話は後で書類を説明しながらするんだけど、とりあえず今後の事を打ち合わせしようかと」
『あ、はい。よろしくお願いします』
小「とりあえず君はいま、ちゃんとした住居がないでしょ?それで、あの日から僕もいろいろと考えてみたんだけど···」
万「社長···まさか?」
小「正解。そのまさか」
···まさか、ってなんだろう?
二人のやりとりの意味が分からずに、交互に顔を見てしまう。
万「あそこは年頃の···」
小「大丈夫、僕はみんなを信じてるから」
そう言ってニコニコと柔らかな笑顔を崩さない小鳥遊社長と。
同じようにニコニコしながらも、ちょっとだけ眉を寄せている万理と。
小「それに今しばらくは仕方ないけど、成人してるとは言え若い男女が “ ふたりで ” 同じ部屋に寝泊まりし続けるのも、ね?」
万「俺は···構いませんけど」
小「実際は僕も構わないよ?お互いが納得してるなら。だけど、いずれまた活動する予定のある彼女が住所不定にしたままなのは僕としては何とかしてあげないといけないから」
住所不定···確かに今の私は、万理の家に間借りしてるからそう言われても仕方ない。