第2章 7つの原石
姉鷺さんに連れられてエレベーターの前にいると、さほど待つこともなく小鳥遊社長が廊下を歩いて来た。
小「お待たせしてしまったね、愛聖さん。それから君も、彼女を連れて来てくれてありがとう」
姉「いえ、アタシは別に···それより下までお送り出来なくて申し訳ありません」
姉鷺さんがそう言うと、小鳥遊社長は子供じゃないから大丈夫だよ、と笑っていた。
エレベーターが到着し、小鳥遊社長と二人で乗り込む。
このエレベーターも、本当に最後なんだ。
そう思うと胸が痛かった。
姉「愛聖、ちゃんと階段を駆け上がりなさいよ?途中で足を止めたら、後ろからド突くからね!」
「姉鷺さん···はい!」
姉「うん、合格!次に会う時は···ライバルよ?」
閉まるドアの向こうで、姉鷺さんが笑って手を振ってくれた。
次に会う時は···ライバル。
その言葉で胸がいっぱいになった。
小「君は···八乙女も含めて、いい人達に囲まれていたんだね。もちろん、これから先も···だけどね?」
『はい···ありがとうございます』
小鳥遊社長の言葉に、更に瞬きなんて出来なくなる。
既に零れてしまいそうな涙を···堪えていたから。
地下駐車場へ停めてある車に乗ると、小鳥遊社長がチラッと腕時計に目を落とす。
小「さて、万理くんもきっと首を長~くして僕達の帰りを待ってる···けど、その前にスッキリしちゃおうか?」
そう言いながら後部座席にいる私を振り返り、腕を伸ばして頭にぽんっと手を乗せた。
小「今ならここには僕しかいない。もう、我慢しなくていいから、ね?」
ずっと耐えていた事を、気付いていたんだ···
ニコニコと微笑む小鳥遊社長と視線が合い、それまで堪えていた物がついに溢れ出した。
小「今日は君とって、本当の意味での終わりと···そして始まりの日だ。うちは八乙女の所みたいに大きな所ではないけど、ちゃんとバックアップする事は約束するよ。だから、君にしか出来ない事を精一杯やり遂げなさい」
『···は、い。ありが、とう···ございます』
とめどなく溢れる涙と、込み上げる嗚咽に混じりながら、私は小鳥遊社長を真っ直ぐ見て···そう、返した。
今日からが私の新しいスタート。
その言葉を噛み締めながら、私は涙を拭い取った。