第2章 7つの原石
小「でも彼女は君に直接スカウトされたと言っていたけど?」
「それは仕事帰りにフラフラと夜道を歩く愛聖を見つけたからだ」
遅い時間ではなかったが、子供がフラつく時間とは言えない。
こんな事がこれからもあるとしたら、そう思うと自分の目が届く手元に置くことを優先させた。
所属させる事を母親に承諾させ、その後は出来る限りの事をしてやった。
時間が出来ればレッスン場へも出向いた。
当時の姉鷺はまだフリーだったから、多少の身の回りの世話などを担当させた。
姉鷺は男ではあるが、私よりも愛聖に近い立ち位置で物が言えるヤツだ。
当の本人である愛聖も、姉鷺によく懐いていた。
やむなくしてメディアに出しても恥ずかしくはない成長を見せた愛聖を世に送り出したのは私だが。
母親の事の後からパッタリと曇りが現れ始め、今日に至る。
小「八乙女、話は分かった。まだちょっと動揺してて頭の中が整理しきれてないけど、それを踏まえて君にもう一度聞くよ。本当に、僕が彼女を預かっても···いいんだね?」
瞬きもせず、小鳥遊が真っ直ぐに見る。
張り詰めた空気の中、互いに緊迫したものを纏う。
「あぁ。お前になら···」
小「いきなり返せと言われても、返せないよ?」
「つまらん事を言うな」
小「じゃあ、僕はそろそろ。美味しいコーヒー、ご馳走さま。あ、彼女はいまどこに?」
小鳥遊に聞かれ、姉鷺に連絡してやるとエレベーター前まで姉鷺が連れて来る事になった。
「愛聖の残ってる荷物は近々そっちに送ってやる」
そう言いながらドアに向かう小鳥遊を見送れば、ノブに手を掛けて小鳥遊は振り返った。
小「そうだ、ひとつ大事な事を伝え忘れる所だったよ」
大事な事?
「なんだ」
小「本当は今日、ここへは僕が一人で来るつもりだった。けど、どうしても一緒に行きたいってお願いされてね。自分にとって、八乙女社長は大切な人だから···と、言っていたよ」
小鳥遊の言葉に、思わず息を飲んだ。
あんな仕打ちをしたのに、大切な、だと?
「くだらんな···」
一度目を閉じて言い、視線を感じて目を開けると小鳥遊が微笑んでいた。
「何をしている、早く帰れ!」
小「じゃ、また」
クスクスと笑いを残して、小鳥遊は帰って行った。