第8章 新たな一歩へ
静かに閉められるドアを見ながら、大神さんはまるで母親のようだとクスリと笑う。
『···?一織さん···』
自分が笑ったせいで振り返った佐伯さんが、そこに佇む私を見て瞬きを見せた。
「お帰りなさい、佐伯さん」
ごく自然に、普段と変わりなく声をかけると、どこかホッとしたような表情を見せながらシューズボックスへと靴をしまう。
『あの、一織さん···えっと···』
慎重に言葉を探す様子から、きっと今日の事についてなにか言いたいんだろうと予測がつく。
「佐伯さんにもご心配をおかけしました。もう···大丈夫ですから」
『でもまだ、一織さんらしい毒がないみたいですけど』
ど···
「私らしい毒ってなんですか?私は至って普通です···それとも私に、二階堂さんみたいなイジワルを望んでいるのですか?」
『そうじゃなくて』
「ではなんです?六弥さんのような甘々なスキンシップがいいんですか?それとも、大神さんの方がいいですか??」
『万理みたいな···う~ん···?』
普段から大神さんは、佐伯さんの甘えどころである事は···誰でも暗黙の了解で。
それを真似しようとは思いませんが、つい···引き合いに大神さんの名前を出してしまった。
私らしくもない···そう思った時。
『じゃあ···せっかくなんで、万理スタイルで』
「は?あ、ちょっと?!」
フワリと漂う甘い香りと、小さな衝撃に動揺する。
「あなたバカなんですか?!急になにを!」
『だって、一織さんが言ったんですよ?ナギさんか万理か選べって。だから、馴染みのある万理スタイルを選んだんですよ?』
だからって、そう簡単に異性に抱き着くなんて普通はしませんよ!
···六弥さんくらいです!
『あれ?もしかして一織さん、お風呂上がりですか?···いい匂いがします』
私の胸元に顔をつけ、スンッと息を吸う佐伯さんに、更に動揺する。
「なにしてるんですか?!···かっ、嗅がないで下さい!」
『いま思ったんですけど、みなさんってそれぞれ使ってるシャンプーとか違うんですね···あ、だからバスルームのラックがいっぱいなんだ···納得』
それぞれに好みが違うから、多人数で生活する上でそれは仕方のないことでしょうけど。
それを言うなら···