第8章 新たな一歩へ
❁❁❁ 一織side ❁❁❁
三「一織、やっと出たか」
バスルームから出てリビングへ入ると、キッチンにいた兄さんから声を掛けられる。
「私に用事でも?」
三「用事っていうか、まだ愛聖が戻らないから、浴槽のお湯抜くなよ?って言おうと思ってたんだ」
あぁ、なるほど。
「それなら既に全て排水しました」
三「マジか?だって愛聖も帰ったら風呂入るだろ」
「さすがに私たち全員が使った後のお湯を女性に使わせる訳にはいきませんから、洗い直して新しい物を用意しておきました」
あのステージから降りる時、ふと振り返った時の佐伯さんの表情がチラついてしまって。
彼女にも多大な心配をさせてしまった、せめてものお詫びに···ですが。
壮「はい、どうぞ?僕が早く気が付けば良かったのに、一織くんにやらせてしまってゴメンね」
「ありがうございます」
逢坂さんから手渡されたミネラルウォーターを口にしながら、静かに時を刻む時計をチラリと見る。
本来ならば私達と一緒に帰る予定が、手違いで彼女だけテレビ局に置いてきてしまった。
社長からは詳しい理由は聞かされなかったけど、ここへ来る前にいた事務所の社長に送って貰ってる、とか。
きっと肩身の狭い状況でいるだろうと思うと、責任を感じてしまう。
マネージャーを含め、それどころじゃない状態を作り出してしまったのは···私自身ですから。
三「一織、早く髪乾かして来いよ?風邪でもひいたら困るだろ?」
「そうですね。大事な時に体調崩しでもしたら、誰かと同じになってしまいますから」
陸「ちょっと一織!それってオレのこと?!」
「さぁ、どうでしょう?」
ひとつ小さく笑って見せて、部屋にいますからと告げリビングを出れば、ちょうど玄関が開いて2つの人影が見えた。
万「事務所に置いて来た衣装は俺が明日クリーニングに出しとくから」
『ありがとう万理。私が自分で行っても良かったんだけど···』
万「こういうのも俺の仕事だから気にしないの。なんたってほら、俺は有能事務員だからね?」
『そうでした、よろしくお願いします。それから、寮まで送ってくれてありがとう』
万「じゃ、俺はまだ仕事が残ってるから戻るよ。おやすみ愛聖。お腹出して寝るなよ?じゃあね?」
お腹···?
そこまで寝相が?