第8章 新たな一歩へ
万理に局入りした時のタクシーの領収証を渡していると、社長が事務所へと戻って来た。
『社長!今日は本当にすみませんでした···他社の、しかも社長さんに、とか···』
いくら前にお世話になっていたとは言っても、現社長からしたら気持ちのいいものではない。
そう思って、何より先に頭を下げたけど···
小「え?全然気なしてないから大丈夫だよ。むしろ僕の方が愛聖さんに謝らなきゃだからね。紡くんが置いてきぼりにしちゃったんだし···ごめんね?」
『あ、いえ···それは大丈夫です。八乙女社長にもタクシーで帰れると言ったんですけど、その···』
小「決定事項だ!」
『え?』
小「···とでも言われたんじゃない?八乙女とは長い付き合いだからね」
『一言一句間違いなく、そうでした』
私がそう告げると、でしょ?とひとつ笑って社長が小さな箱を私に差し出した。
小「最後に八乙女から預かったんだよ···ゴホン···小鳥遊、佐伯 愛聖に渡せ···ってね」
『いまのって、八乙女社長の真似ですか?』
小「あれ?似てなかった?おかしいなぁ、そっくりに出来たと思ったんだけど」
そっくりではないにしても、きっと八乙女社長を知っている人なら思わず笑ってしまうくらいには似ているとは思う。
『それで、この箱は···あっ···』
小「八乙女は、渡せばわかる。余計な詮索はするなって言って、帰ったよ」
この箱···でも、どうして···?
ゆっくりと箱を開けると、中にはドライフルーツがたくさん詰まったスティッククッキーが綺麗に並べられていて、前に渡された洋菓子店のロゴが焼印されていた。
小「八乙女なりの、ご褒美なんじゃないかな?ほら、前にもあったでしょ?」
『でも、移籍した私に···どうしてご褒美なんて?』
箱の中身を見つめながら言う私に、社長がニコニコと笑いかける。
小「せっかくだから貰っておきなさい。僕としては、あの八乙女がどんな顔をしてそれを買っているかの方が興味あるけどね」
その時の社長の目が、いつも以上に穏やかに感じたのは···私の気の所為なんだろうか。
そう思いながらも、私はまだ、箱から目を離せないでいた。