第8章 新たな一歩へ
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
ドアが閉められる音がして少し経つのに、一向に顔を見せない愛聖が気になって通路を覗く。
そこには、どういう訳だか片腕を高く上げている愛聖がいて···その格好に思わず吹き出してしまう。
「なに、かな?」
我慢出来ずに震える肩を揺らしたまま言えば、恥ずかしそうに愛聖がゆっくりと腕を下げた。
『た、ただいま万理』
「うん、お帰りなさい」
愛聖の言葉にそう返しながら、腕を摩り続ける様子を見て、もしや?と考える。
「そこ、痛いんじゃない?」
人は痛みがある場所を無意識に触れて痛みを逃そうとする。
それが当てはまるとしたら、きっとそうなんだろう。
『オンエア始まる前に、薬飲むの忘れちゃって』
そりゃ痛いだろうな···なんせ骨折してんだから。
「おいで愛聖。とりあえず冷やすなり安静にするなりしないと治りも悪くなるだろ?」
軽く手招きをしながらも歩み寄り、足下に置かれた手荷物を拾い上げた。
「さ、中に入って入って。荷物置いたら俺は何か冷やせるものを用意するから、俺のデスクで待ってて?」
給湯室の冷蔵庫に保冷剤や氷が幾つかあったな?なんて考えながら数歩を歩き出せば、ツン···っと引かれるジャケットに足を止めた。
「どうした?」
振り返りながら言うと同時に、ポスンと小さな衝撃が来て。
「ん~?出たな···妖怪甘えん坊」
俺の体にペタリとくっつく愛聖がいて。
『万理···ちょっとだけ、充電』
「アハハ···ちょっとでいいの?」
『じゃあ、遠慮なくフルパワー充電で』
こうやってピッタリくっつく愛聖を見てると、あの千が構い倒したくなる気持ちもわかる。
いつだったか千が、愛聖は自分とは別次元の生き物だって言ってた事があった。
感情豊かで、泣くし、怒るし、楽しい時は思いっきり笑うし。
そういうのを近くで暫く俺も見てたけど、俺や千とは違う生き物だって千が言うのも、妙に納得しちゃうよな。
そもそも、俺らとは違って華の女の子だし?
『万理···充電完了したら、お腹空いた···』
「まだ色気より食い気か···」
『え?』
「なんでもないよ。さ、行こうか」
不思議そうな顔をする愛聖の背中を押しながら、また歩き出した。