第8章 新たな一歩へ
車から降りるタイミングで事務所のドアが開き、慌ただしく社長が姿を見せ、それを見た八乙女社長が自らも車を降りた。
小「お帰りなさい、愛聖さん。八乙女、手間をかけさせてしまって申し訳ない···ありがとう」
八「フン···大した手間ではない。この後の進行方向と同じだっただけだ」
小「あれ?そうなの?さっきの電話では確か···」
八「黙れ小鳥遊。私はお前と違って忙しいんだ。ムダな時間を使うな」
ニコニコとする社長と。
あからさまに不機嫌な態度を見せる八乙女社長と。
傍から見たら、何か怒りそうな雰囲気ではあるけど。
でも、なんとなくそうじゃないって事は私にも伝わって来る。
大人同士の、昔から知り合いの···的な会話の流れなんだろうなと黙って見ていた。
小「愛聖さん、僕は少しだけ八乙女と話があるから先に中に入ってなさい。事務の者がキミの帰りを待っているからね」
社長がいう事務の者って言うのは、つまり、万理の事で。
いろんな事情を抱えている万理も、あまり名前が広がらないように、他社の芸能関係者がいる外では社長が名前で呼ぶ事は多くはない。
大神···っていう名字なら、世の中にたくさんいるだろうけど、万理っていう名前の方だと···分かる人には分かってしまうかも知れないからという社長の配慮のひとつだって前に聞かされた。
『分かりました。あの、八乙女社長···本日は大変お世話になりました、お忙しい中ありがとうございました』
深々と頭を下げてお礼を述べて、持てるだけの手荷物を持って事務所へ入る。
社長がどんな話をするのか気にはなったけど、私を外すという事は、社長が聞かれたくない···もしくは聞かせたくない話だと踏んで素直に指示に従った。
ドアを閉じて、数歩進み···1日の緊張感から解き放たれた感覚にホッと息を吐く。
朝早くからの局入り。
そこでの出来事。
長時間の生放送に···最後の出来事に···
考えれば考えるほど、いろんな事があった長い1日だったと思えた。
『ホント···長い1日だったなぁ···』
ポツリと呟いて、またため息を吐く。
気が抜けたせいか、ケガをしている手も痛みだし押さえてそっと摩ってみて、千がこっそり言った言葉を思い出し片手を高く上げると、奥の部屋から顔を出した万理と視線が合ってしまった。