第8章 新たな一歩へ
『も···もしもし?』
楽 ー はぁ···やっと出たか。お前、ホント電話繋がりにくいのな。それとも俺を避けてんのか? ー
うっ···なんだかこっちも不機嫌な声色。
『別に避けてる訳じゃなくて、ただちょっと···バタついてたっていうか』
楽 ー バタついてた?なにかあったのか? ー
『そうじゃなくて、まぁ、いろいろ。とりあえず今も長くは話していられないから、帰ってから掛け直すね?』
楽 ー 帰ったら?あぁ、移動中なのか、お前。まさか運転中···ってことはないか、今日は仕事だったんだし。いや、待て···もしかしてひとりで帰ってるとか言わないよな?だったら、 ー
『大丈夫!全然大丈夫だから!とにかく後でまた掛けるから待ってて楽!』
八「···楽?」
···しまった。
つい、隣に八乙女社長がいる事を忘れてた···
八「その電話、楽なのか?···答えろ、佐伯 愛聖」
楽 ー 男の声がしたか?···愛聖。お前いま、誰と一緒にいるんだ?千さんか? ー
あぁ···なにも疾しいことはないのに八方塞がりな気分···
『千···じゃないよ。事情により、八乙女社長に送って頂いてます···ハイ···』
事実は事実で嘘はつけないから、大事なところを正直に明かした。
楽 ー はぁっ?!なんで親父なんかと! ー
『と、とにかくまた後で!』
楽 ー おい!待··· ー
勢いで通話を切っちゃったけど、後で小言を言われるのだけは覚悟しておこう···
それより、問題は···こっちにも残ってるし。
『すみません、うるさくしてしまって』
苦笑を見せながらスマホをバッグに押し込むと、八乙女社長の顔はさっきより不機嫌さを増していた。
はっきり言って、こういう時の八乙女社長って···楽と良く似てる。
さすが親子···だよ。
八「手が空いた時間に現を抜かすとは、姉鷺にもっと厳しく言っておかねばならないな。遊ぶ時間など、これから先は強請る暇さえない程に···奴らには再教育が必要だ」
ゴメン、楽。
前を向いたまま話す八乙女社長の言葉に、心の中で楽に謝る。
それから程なくして、見覚えのある街並みを走り抜け、車は小鳥遊事務所の前で停まった。