第8章 新たな一歩へ
懐かしい感じに思えるシートに背を預けながら、窓の外で止まったままの街並みをぼんやりと見つめていると、フン···と息を鳴らして通話を終えた八乙女社長がチラリと私を見て車を走らせた。
八「佐伯 愛聖。お前にひとつ言っておく事がある」
『は、はい!』
ハンドルをキープしたままで言う八乙女社長に、思わず背筋をピンと張って顔を向けた。
八「今日の仕事、反省すべき箇所が幾つもある。帰ったら自分で思い返すんだな」
『はい···』
八「まぁ···本来、他社のタレントがどうなろうと私には関係ない。だが、佐伯 愛聖···お前は別だ。お前の失敗は、全て私にも繋がることを忘れるな」
『分かりました···ご助言、ありがとうございます』
反省すべき箇所···それは自分でも少し分かってる。
カメラが向けられていない時、ちょっとだけ気を抜いた瞬間があったから。
それはラフしていたという訳でもなくて。
どうしても頭の中に一織さんたちの事が浮かんでしまったから。
それを振り払おうと、息を吐いた瞬間でもあって。
放映されていなくても、関係者のモニターには全カメラの映像が流れている。
きっと八乙女社長は、どこかでそれを見たんだろう。
八乙女社長の言葉を忘れてしまわないうちにメモしておかなければとバッグを開けた時、マナーモードにしたままのスマホに着信のランプが点滅しているのを見つけて取り出してみる。
もしかしたら紡ちゃんや小鳥遊社長からだったかも知れないと画面をタップしてみれば···
が···楽?!
不在着信に記された名前を見て、慌ててスマホを閉じる。
さすがに今、この場で折り返しの電話は···かけられないよ。
だって隣には···八乙女社長がいるのに。
そう思ってさり気なくスマホをバッグに押し込もうとすると、着信を知らせるランプが点滅し始めた。
まさか、ね?
スマホカバーの隙間から除けば、そこには楽の名前がドーンと表示されていて、出るまでずっとこうだったらどうしようかと少し動揺してしまう。
八「必要な相手ならば、構わず出ろ。どうせ小鳥遊からだろう」
いえ···あなたのご子息である楽です···とは言えない。
けど、とりあえず出るだけ出て、後で掛け直すと伝えてすぐに切ろう。
そう決めて、そっと画面に触れた。