第8章 新たな一歩へ
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
「あの振り袖も、社長チョイスですか?」
事務所で社長とテレビを見ながら、衣装替えをして出て来た愛聖を眺める。
小「センスいいでょ?って言いたいけど、あれは愛聖さんが自分で選んだ色と柄だよ。僕は、折角なんだから真っ赤で華やかなのはどう?って言ったんだけどね···」
「愛聖の事だから、演者さんより目立つのは···とか、そういう感じですか?」
何となく想像がつく社長と愛聖のやり取りを言えば、社長はひとつ頷いた。
小「愛聖さんの年を考えたら渋すぎるんじゃないかと思ったけど、こうやって客観的に見てみると意外とイイ感じだよね?」
「まぁ、そうですね。淡い色に合わせた締め色の帯や飾りが映えてて、実際の年より大人っぽく見えますね」
少し崩して結い上げた髪も、時折チラチラと首筋を透かして···艶っぽくて···
···って、なに考えてんだか俺は。
小「万理くん、鼻の下伸びてるけど?」
「伸びてません!」
ケラケラと笑う社長にピシャリと言って、でも、まさかね?と鼻を隠す。
「女の子は···化けるなぁ···」
ポツリと呟いて、チクリとする視線を感じてハッとする。
小「念の為、言っておくけど。信じてるからね、万理くん?」
「分かってますよ、社長」
そもそも、俺が愛聖に···なんて、愛聖からお断りされるって。
お互いを昔から知っていて、俺なんて愛聖がランドセルの時代を知ってるわけだし。
あの頃の愛聖を思い出して、今とは全然違うよなぁ···なんて思ってる事がバレたら、愛聖に怒られそうだ。
ほんの数年、側を離れただけで。
愛聖も、千も、随分と成長したもんだ。
俺は···どうなんだろう。
俺は俺として、ちゃんと歩いて来れていたんだろうか。
小「万理くん?ぼんやりしてどうかした?」
「あ、いえ。それよりそろそろ終わるみたいですね···あの子たちが帰って来たら元気に迎えてあげなきゃですよ、社長!」
小「そうだね」
恐らく最後の出演者であるだろうアーティストが歌い出し、カメラが動きを追う。
そんな映像を眺めながら、社長と2人湯気の立つカップに口を付けながら···静かに番組が終わるのを見守った。