第8章 新たな一歩へ
誰にもバレないように大きく大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
よし、オレはもう大丈夫。
今日の分で落ち込むのは、これで終わりだ。
パンっ!と両頬を叩き、そっと一織の隣に立つ。
陸「ほら、一織。お前がいなきゃ、始まらないよ」
一「七瀬さん···」
陸「みんな笑ってよ、オレはみんなの事が大好きだ。ナギ···実はオレも、ナギと同じだよ。みんなに笑って貰うのが好きで、その為に歌ってた。だから、ナギと同じ気持ちなんだ」
陸···お前も、自分の兄貴と同じ場所を目指して頑張ってきたんだもんな。
みんなそれぞれ、いろんな思いを抱えて頑張ってきたんだ。
だから一織、お前も···今日を乗り越えて、また頑張ろうぜ?
···な?
人知れず小さく笑って、わざとらしく一織の背中に喝を入れる。
「そうだよ忘れてた!今日は最高の日だ···人生初めての経験が出来るんだぜ!!」
一「···なんですか?」
まだ涙で光る目で、一織がオレを不思議そうに見る。
「泣いてる弟をハグして慰めてやんのさ!」
一「わっ···」
不意をついて一織をギュッと抱きしめ、ポンポンっと背中をそっと叩く。
「大丈夫、大丈夫···お兄ちゃんが着いてっから!···頑張ったな、一織」
一「や、やめて下さい···恥ずかしい···」
そのまま一織の頭もわしゃわしゃと撫でて、まだジワリと浮かぶ涙も、ゴシゴシと拭い去ってやる。
そんなオレたちを見て陸が笑い出し、その場の空気が和らいでいくのを肌で感じる。
ナ「all right···」
マネージャーの隣にいたナギがオレたちの輪の中に戻り、オレたちを順に見てからマネージャーに微笑んだ。
ナ「···それでは、魔法の言葉を」
紡「はい···Please···Please Music!」
マネージャーの言葉を合図に、誰からともなく小さなメロディーが流れ出す。
その中には、オレもいて···ちゃんと一織もいて···
今までと同じ、7人揃った歌声で。
明日なんてどうなるか、明日になってみなきゃ分からない。
けど、今日の失敗も···今日の経験も、ちゃんとオレたちみんなの明日に繋がっている。
だから今は、どんな未来が待っていようとも···オレたち全員で乗り越えられると信じて···顔を上げて進もう。
そう心に誓って、星空を見上げた。