第8章 新たな一歩へ
❁❁❁ 一織side ❁❁❁
間違い···ない。
七瀬さんは発作を起こしかけてる。
まさか、あんな状態で歌い続けるつもりじゃ···
せっかく掴みかけたチャンスだから、出来る事なら七瀬さんの歌声を響かせたい。
だけど、もし···失敗してしまうくらいなら、いっそ他の誰かに代わって···
だとしたら、誰が?
···私が?
それとも、他のメンバーに頼む?
それをどうやって伝える?
···どうする?
早く···早く決めなければ···
頭の片隅では、とうに曲がスタートしている事は分かってる。
だけど、このまま七瀬さんが歌い続けて···もしも失敗したらという不安がそれを覆い隠す。
ポジション移動の時に二階堂さんへと伝えるか。
それとも、自然と立ち振る舞える逢坂さんへと伝えるか。
どちらにしても···七瀬さんにもそれを伝えなければ、全てが上手く回らない。
どうしたらいい?!
思考を張り巡らせているさなか、視界の端に人影が動く。
···兄さん?
どうしてそんなに驚いた顔で···私を?
顔を上げれば···七瀬さんまでもが驚いた顔を私に向けている。
どうして···どうしてみんなが、私を?
深く思考に沈んでいた状態から、急に現実へとひきあげられる。
この···パートは···
このパートは私の歌い出しだ!!
ハッと我に帰った時には既に遅く、曲は待ってくれることもなく進んでいく。
誰もが驚き、時が止まってしまう。
今日まで必死にみんなで合わせてきた振り付けもズレが起きてしまい、お互いにギクシャクしたままで···それでも曲は流れて···終わった。
下「ありがとうございましたー!ちょっと緊張しちゃってたかな?アイドリッシュセブンでした!」
MCに見送られてステージを離れ袖に入る。
どうしてこんなことに···
割れんばかりの歓声に包まれたTRIGGERのステージをモニターで見ながら兄さんは涙を浮かべ、二階堂さんもため息をつく。
···こんな筈じゃなかった。
こんな結末は予想もしていなかった。
頭の中に張り付いたミスが表情を曇らせる。
全員でデビュー出来る大きなチャンスなのに。
そのチャンスを壊してしまったのは···私だ。
こんな時、どうしたらいいのか分からない。
そんな思いと共に、そっとその場を離れた。