第2章 7つの原石
八「あぁ、そうしてくれ」
普段なら何かと文句ばかりを言ってくる八乙女が、こんなにも躊躇するなんて。
あんなにも自信満々で、あんなにも人を人とは思わない···あ、いや、これは言い過ぎかな。
だけど、自社のタレントを人ではなく商品として扱う八乙女が、いったい何を躊躇するほどの事が?
八「あの娘の、過去の話は聞いてるか?」
過去?
「ざっくりとしか聞いてはいないけど。確か、小さい頃に父親を亡くして、母子家庭で育ったんだとは聞いたよ。そしてその母親も、少し前に亡くしたと」
彼女の母親が亡くなったのは、テレビでも小さく取り上げていたから僕は本人から聞かずとも記憶にはあった。
八乙女が彼女を売り出して、それが結果を残し始めた頃···彼女が仕事をしている時の危篤の知らせだった、とか。
誰にも知られず仕事を終わらせてから病院へ駆けつけたけど、その時にはもう···意識も朦朧としていて、看取るのが精一杯だったと本人から聞いた。
そして、天涯孤独になったんだと。
八「確かに、育ての父親はアイツが小さい頃に亡くなった。それは私も知っている」
そうだよね、八乙女は彼女が所属してた所の社長···
え···育ての?
「ちょっと、待って貰えるかな?いま、僕の聞き間違いでなければ、育ての父親って···」
八「そうだ。聞き間違いなんかじゃない、そう言った」
そうか、やっぱり聞き間違いじゃなかったのか。
「じゃあ···彼女の本当の父親っていうのは、今もどこかで健在って言うことなのかな?」
八「···そうだ。お前の···目の前にな」
僕の、目の前に···?
···って。
「ま、さかとは思うけど、八乙女が?」
動揺のあまり、言葉が妙な所で途切れてしまう。
八「あぁ、そうだ。認知こそしてはいないが、佐伯 愛聖は···私の娘だ」
「認知って···だって君には別れてしまったけど奥さんがいたじゃないか!」
八「まだあの女と婚姻が続いていた頃、アイツの母親と知り合った。最初はその時だけの遊びのつもりだったが···付き合いは数年続いていた」
「確かに君は女性関係は賑やかだったけど、でも···奥さんがいる身でまで。じゃあ、子供が出来たから関係を終わりにしたのか?」
八「いや···子供が出来た事は知らなかった」