第2章 7つの原石
❁❁❁ 小鳥遊音晴side ❁❁❁
八乙女がこうまでして僕に話したい事は、いったい···
また、結の事か?
何かと顔を合わせる度に衝突しては、結の事を持ち出してきた八乙女を思い浮かべ、それなら結はちゃんと幸せの中で精一杯に生きた···と彼に向き合わなければと心に決める。
八「いつまでそこに立ってるつもりだ。早く座れ」
視線だけでソファーに促され、これは失礼···と腰を下ろす。
八「お前はミルクと砂糖、だったな」
「え、あぁ、ありがとう」
フワリと香るカップを置かれ、更にそう付け加える八乙女を見て少しだけ笑ってしまう。
「ブラックでいいか?ではなく、ちゃんと僕の好みを覚えていてくれてありがとう」
八「···黙れ」
八乙女は無愛想にそう言うけど、それはきっと···一種の照れ隠しなんだと勝手に思い込む。
「それで、人払いまでして僕に話したい事ってなんだい?」
カップに口を付けながら、本来の目的は何かと問いかける。
八「お前はどこでアイツを···佐伯 愛聖を見つけた?なぜ自分の元に置こうと考えた?」
···結の事じゃないのか。
「どこで彼女に会ったのかは、すまないけど答えられない。彼女のプライバシーに関わる事だからね」
まさか、万理くんの自宅で···なんて言える訳がない。
それを話してしまえば、彼女と万理くんの関係性まで追求されてしまう。
万理くんの過去を思えば、尚更の事だ。
「なぜ僕のところにって言うのは、それはまだ彼女が輝いているからだよ」
八「お前の目も随分と曇った様だな」
「酷いなぁ。でも、そんな曇った目でも彼女が小さな輝きのカケラを抱いてるのは分かるよ」
八「くだらん···」
「八乙女。僕に話したい事は、そんな事じゃないだろう?」
胸の内を探るように言えば、八乙女は難しい顔を更に難しくして黙った。
静かな部屋で、カップを置く音だけが小さく響く。
八「今からお前に話す事は···墓まで持って行こうと思っていた事だ。他言無用だ」
墓まで?
他言無用?
それほどまでの事を、僕に話そうとしているのか?
そんな思いを含めて前を向けば、八乙女は何度か頷きながらも、その目は真剣だった。
はっきり言って、こんな八乙女は見たことがない。
「分かった、約束するよ。これから聞くことは誰にも言わない」