第8章 新たな一歩へ
❁❁❁ 陸side ❁❁❁
吸入器がないって言うだけで、とてつもなく不安になる。
もし···
もし、歌ってる途中で発作が起きたら。
そう思うと、いろいろな気持ちに押し潰されそうだ。
今日の結果次第で、オレたちが全員揃ってデビュー出来るかどうかがかかってる。
ほんの数分。
たった数分だけでいいから、今は···どうにか発作が起きないように祈るだけだ。
呼吸をする度に微かに感じる胸の奥の雑音を閉じ込めるために、ゆっくり、ゆっくりと息を吸っては···吐いていく。
今までだって、こうやって静かにしていれば何とかなった事もあるんだ。
モニターに映る観客席を見つめれば、TRIGGERと書かれたうちわを振り続けるお客さんがたくさんいる。
···天にぃ。
もう少しで、同じステージに立つことが出来るんだ。
だから今は。
今だけは···何が起きてもこのステージを優先させたい。
大「おいリク。おまえさん何だか顔色が良くないみたいだけど大丈夫か?」
不意に目が合った大和さんに聞かれ、オレはいま出来る精一杯の笑顔を向けた。
「大丈夫です。なんかちょっとだけ緊張しちゃって···今日は何があっても、例え倒れても歌い続けますから!」
三「あのなぁ!全国ネットで倒れたりしたら困るだろっての!緊張してんのはオレも同じだから、1人でガチガチになるなよ?」
「アハハ···分かってるよ三月。大丈夫だから、そんな怖い顔しないでよ···それじゃ一織みたいじゃん」
一「七瀬さん···あなたもしかして」
「あ、ほら見て!オレたちの愛聖さんがステージで頑張ってる!だからオレたちも頑張らないと!」
もしかして一織は···気が付いてしまってるんだろうか。
さっきからオレの顔を見る度になにか言いたそうにしてる。
もし一織に発作が起きそうな事がバレたら。
一織はきっと、オレに負担が掛からないようにパート変更しろとか言ってくるかも知れない。
そんなの···オレはイヤだ。
絶対、歌い切って見せるから。
あの雨の日の小さなステージだって、ちゃんと歌えた。
大丈夫。
絶対、大丈夫。
自分に言い聞かせるように心の中で唱えながら、もうすぐ来るだろう出番を···待ち続けた。