第7章 予期せぬ出来事
下「最初はケガをしたからって断られたんだけど、そんなの平気だからって言ったら、オッケーくれてさぁ」
「ケガ?」
そんなの僕は聞いてないし、ケガって言われたら気にはなる。
下「なんでも、手首を骨折したとか言ってたっけ」
「「 骨折?! 」」
予想外のケガの具合いに、思わずモモと叫ぶ。
百「マリーが骨折だとか、オレ全然知らなかった」
「···そうね」
骨折となれば、多少なりとも不自由な生活をしているに違いない。
一緒に生活をしているのが女性なら、きちんとした気配りもあるだろう。
だけど愛聖は···そうじゃない。
下「本人曰く、たいしたことないとは言ってたけどね?もし気になるなら、今夜ここの会議室で打ち合わせがあって佐伯ちゃんも来るから、キミ達がスケジュール大丈夫なら様子を見ればいいよ」
···今夜?
同じ事を考えたのか、モモが壁掛け時計に視線を移す。
確か今日はこの後、音楽番組の収録があって···それが終わったら仕事は終わる。
Re:valeだけの別撮りだから、僕たちがスムーズに動ければタイムロスもない。
「モモ?」
百「分かってるって、ユキ!」
「なら、いいけど」
懐っこいモモは、とにかくスタッフとのやり取りが長くなる傾向がある。
僕がそう上手く出来ない事をモモが立ち回ってくれてるから有り難いことには変わりないんだけど。
見ていて、聞いていて···面白い事もたくさんあるし。
でも今日は別だ。
「下岡さん。その打ち合わせの時間と場所、教えて貰っても?」
下「あぁ、いいよ。ちょっと待って?」
ポケットからペンを出して、楽屋に置いてあるべーパーナプキンにメモを書いてくれる。
下「はい、これね?他のスタッフにはキミたちが顔を出すかも?位のことは伝えておくよ。その方が部屋に出入りしやすいだろう?」
「ありがとうございます。スケジュールが押さない限り、伺います」
下「ぜひ、おいで?···っと、そろそろ行かないと。千くん、コーヒーご馳走様」
飲み干したカップをクシャりとたたみ、ゴミ箱に入れて、じゃあね~と手を振って下岡さんは楽屋から出て行った。
百「マリーのケガ、心配だよねユキ」
「そうね···」
モモにそう返しながら、早めにスタジオ入りしようと身支度を急いだ。