第7章 予期せぬ出来事
万「なんてね。どう?俺のホンキ、ビックリした?」
ムニュッと鼻先を摘まれて、思わず体を引く。
万「俺がそんな事する訳ないだろ?仮にも愛聖は、ここの大事なタレントなんだからさ?」
『え···じゃ、ウソ?』
万「当たり前だって!こんなの社長に見られたら俺の首が飛ぶよ···」
小「そうだねぇ~、危なかった危なかった···我社の有能事務員を手放すところだったよ」
万「ほら、社長だってそう言っ···社長?!」
『い、いつからそこに?!』
ふんわりとした笑顔を振りまきながら社長が事務所に入って来て、私の隣のイスに腰掛ける。
小「出先から戻ったらまだ電気ついてるし、万理くんがまだ事務所にいるのかな?って思って入って来たら、2人の話し声が聞こえてね。交通費の精算を体で払うとか、凄いセリフが気になって、こっそり覗いてたんだよ」
覗くって···社長、随分前からいらっしゃったんですね。
万「いるなら愛聖を説得して下さいよ···公共機関で通うのはダメだって」
小「そうそう!それね!···愛聖さん?今後はひとりで行動する時は、ちゃんと車を呼んで移動すること。今日は大丈夫だったかも知れないけど、明日は分からない。そういう世界だって、ちゃんと知ってるでしょ?」
『はい···すみませんでした···』
笑顔から真面目な顔で話す小鳥遊社長に、素直に謝る。
確かに、今日は平気でも今後は何があるか分からない。
それは、前の事務所にいた時だって···そうだったから。
小「あ、怒ってないからね?次からは気をつけてってだけで。それから僕がさっき見たのも気にしてないから。僕は万理くんを信じてるからね」
万「社長···」
はぁ···また社長と万理の小芝居が始まった。
これが始まると、何気に長いんだよね。
ま、夫婦漫才的なのは千と百ちゃんので慣れてるけど。
ふぅ···ともうひとつため息を吐いて、程よく飲み頃になったカップに口を付けた。
小「あ、そうだ!ミューフェスの時の愛聖さんの衣装を揃えなきゃね。1着をずっとってのは僕が嫌だから、お色直しの分も合わせて何着か用意しよう」
まるで結婚式のドレスを考えるかのように社長がウキウキとしていた。
私はそれを見て、あんまり自分に予算かけたくないのに···と、小さく笑った。