第7章 予期せぬ出来事
考え事をしている内にサーバーからコーヒーが落ち終わり、ふたつ並べたカップの内ひとつに注ぐ。
愛聖はもうすぐ着くって言ってたけど、あとどれくらいだろ?
ひょこっと給湯室から顔を出せば、ちょうど事務所に入って行く愛聖の姿が見えた。
いつもは俺がやられっぱなしだから、たまには逆襲してみるか?と、足音を立てないように事務所へと近付く。
そっと中を覗けば、愛聖は俺のイスに座りながら自分のスマホを弄り出す。
うん、作戦決行だな。
そろりと背後に近付いて、そっと腕を伸ばして。
「だ~れだ!」
昔からよく愛聖にイタズラされてた行動を、そのままやってみる。
『わっ!もう、イタズラやめてよ』
目を覆う俺の手に自分の手を重ねて愛聖が笑う。
「だ~れだ?」
確実にバレてるのに、それでも名前を呼ぶまでは黙っていようともう一度問いかける。
『ん~誰だろうなぁ、こんなお子様なイタズラするのは百ちゃんかなぁ?』
百くん···なにやってんだよ。
って、俺もだけど!
『誰かなぁ?千は絶対しないし、あ、千はいきなり容赦ないハグだからね~』
千···お前、昔から全然やる事変わってないな。
···知ってたけど。
『ナギさんかなぁ?それとも四葉さんかなぁ?う~ん、誰だろう?意外な所で、二階堂さんとか?』
ナギくんも環くんも考えてみればやりそうだけど、さすがに大和くんはないだろ。
いつまで経っても自分の名前を言わない愛聖が焦れったい。
「ホントに分からないの?そろそろ拗ねるぞ?」
『拗ねるの?』
「···拗ねるよ?」
『私より大人なのに?』
「大人でも拗ねるんです」
『じゃあ、万理の拗ねるとこ動画に収めなきゃ!』
パッと手を振りほどかれ、スマホを向けられる。
「すみませ~ん、そういうのは事務所通して下さ~い」
笑いながらカメラを指で押さえ、逆の手で愛聖の頭をつついた。
『あのね?万理が近付くの窓ガラスに写ってたからバレバレだったんだよね』
「早く言えよ···恥ずかしいだろ」
『焦らしプレイ?ってやつ、大人は好きでしょ?』
焦らし···お前いつそんな言葉を覚えたんだっての!
カラカラと笑う愛聖に困り笑いを見せながら、コーヒー持ってくるからと事務所を出た。