第7章 予期せぬ出来事
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
「大神さん、お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
事務所に残っていた最後のひとりが帰り、残るは俺だけになる。
本来、芸能事務所となれば遅くまで社員がいて何かしらの対応を···ってのが多いけど、ウチは余程がない限り、社長がみんなに定時帰宅を推奨しているから時間までに仕事を終わらせてそれぞれが帰途につく。
···俺以外はね。
残業代なんて貰わなくても、ただの事務員には充分すぎる程の給料は貰ってるから、さり気なく勤怠を押して残りの仕事をこなす日々を送る。
「さてと···」
後はひとりで打ち合わせに出向いている愛聖の帰りを待つだけだし、コーヒーでも入れるかな?と席を立てば、机に置いていたスマホがブルブルっと震えてラビチャのメッセージ受信を通知する。
メッセージを開けてみれば、予想通り愛聖からで。
今どこにいる?っていうメッセージに、事務所にいるよとだけ返した。
直後、もうすぐ事務所着くから待ってて?と返って来て、了解のスタンプだけを送り、愛聖の分もコーヒーを用意しておこうと給湯室に向かう。
愛聖が戻ったら、今日のタクシー代の領収証を受け取って交通費の精算をしたら俺の仕事は終わる。
そしたら愛聖を寮に送りながら、あの子達の様子を見て来ようかな···なんて小さく笑う。
この前、社長があの子達にミュージックフェスタに出る時の為の新曲を渡していたから、今頃はみんな一生懸命に練習してるはずだからね。
···懐かしいよなぁ、そういう感覚。
俺も昔は、千と納得行くまで手直ししたり、音合わせしたりしてたっけ。
千はいつでも、自分が納得出来ないと食事も寝る時間さえも取らずにアレだコレだと言っては手直ししてたよなぁ。
今も···そうなんだろうか?
テレビの向こう側にいる絶対王者のRe:valeは、誰が見ても仲良しユニットで。
だけど、そうじゃない時は···千はワガママ放題なんじゃないか?と苦笑を浮かべる。
百くん、困ってないかな?とも。
まぁ···愛聖から聞くところ、千のワガママは昔ほどじゃないけど健在みたいだし、それでもトラブルが起きてないなら、きっと百くんが上手く立ち回ってくれてるって事なんだろうけど。
百くんの気苦労は、大変だろうな、っと。