第7章 予期せぬ出来事
オススメのメニューは確かに可愛らしくて、下岡さんが話してた通りクリームもフルーツも盛りだくさんで、ひと口食べれば甘さが口の中に広がって頬が緩んだ。
下「どう?気に入った?」
『あ、はい!とっても美味しいです』
同じようにパンケーキを口に運びながら言う下岡さんにそう返すと、下岡さんはニコニコとしながら私を見た。
下「そうそう、その笑顔···年相応でいいんじゃない?いつもの佐伯ちゃんは、こう···何か追い詰まってる感じで、見てるこっちがハラハラしてたからね」
『そんなに変な顔してました?』
ペチペチと頬を叩いてから、表情が固まらないように頬をマッサージする。
下「違う違う!佐伯ちゃんはかわいいし、いい子だと思うよ?ただ、もう少しだけ···視野を広げた方がいいんじゃないかな?」
『視野···どういう事ですか?』
下「う~ん···そうだなぁ。佐伯ちゃんは何事にも真剣だし一生懸命なのは分かるけど、それだけじゃ頭でっかちになっちゃうって言うか?真剣で一生懸命なのは7割くらいで、残りはガス抜きタイムしなきゃ疲れちゃうでしょ」
『でも私は、早く成長して八乙女社長の期待に応えたいんです···だから、』
下「ほら、そういう所。人間誰しも、失敗を積み重ねて成長するもんだよ?完璧さばかりを追求してるうちは、なにも成長しないってこと。な~んて、オジサンの独り言はこれくらいにして、せっかくだから食べようか?なんならデザートも付けちゃう??」
『お腹いっぱいで眠くなっても知りませんよ?』
下「その時は膝枕頼むねー!」
『ガッツリ寝る気ですか!』
あれはきっと、あの頃···必死過ぎて周りが良く見えてなかった私への、下岡さんなりのさり気ない助言だったんだと思う。
それをきっかけに、下岡さんとはご一緒する度にご馳走になったり、同じ局にいるのが分かるとご挨拶に伺ったりして可愛がって貰ったっけ。
小「えっ?!ウチの佐伯を···はい···はい!ぜひ御願い致します!!」
懐かしい思い出に顔を緩ませていると、自分の名前が出た事に驚く。
小「いまちょうど近くに。えぇ、分かりました、お待ち下さい」
保留ボタンを押して、社長が私に受話器を向ける。
小「ミスター下岡さんが、愛聖さんと話したいって」