第7章 予期せぬ出来事
病院での診断結果は、一織さんが予測していた通り、最悪の場合は···だった。
右手首には、腫れが引くまでは完全固定が出来ないからと、簡易的な器具での固定が施されていた。
『ほんの少しだけ、ヒビが入ってただけなのに···』
隣でハンドルを握る万理に向けてポツリと呟けば、万理はため息を吐いた。
万「ほんの少しだけって言っても、ヒビも立派な骨折だからね。それより、しばらくは日常生活に不自由があるみたいだけど···どうする?」
『どうするって?』
万「だからさ、ほら···食事は三月くんに相談すれば箸の代わりに他の物を用意してくれるだろうけど、その···お風呂、とか?」
お風呂···そこまで考えが進んでなかった···けど。
『別に無理して湯船入らなくても平気だし、シャワーで済ませるくらいなら大丈夫なんじゃないかな?』
腫れが引くまではお風呂に入る時、固定器具を外しても···
万「そうじゃなくて。髪を洗ったり乾かしたり、身支度だっていろいろ大変だろ?利き手をケガしてるんだし、メイクだって困るんじゃない?」
そこは···普段からあんまり拘ってないから気にしてないけど。
なんせ寮にいる時はほとんどノーメイクに近い程の軽いメイクだし。
とは言っても、一応はメイクしてる事には変わりない、か。
『万理がしくれても私は平気だけど?』
万「えっ?!いや、俺が一緒にお風呂って訳には···」
···え?
『万理···メイクの話なんだけど?』
万「え?あ···あぁ、メイクね···アハハ···」
なぜ、お風呂だと思ったのか聞いてもいいんだろうか···ま、いいけど。
『だけど、ちゃんとした仕事が入ってなくて、ある意味···救われたかも。けど、さ?社長は呆れてるかもなんだけどね···』
熱やケガを立て続けてる私は、もしかしたらお荷物だと思われても仕方ないから。
万「社長は、そんな事くらいじゃ呆れたりしないよ。なんせ、大怪我をしてる俺をスカウトする位だからね。心も背中も広い、それがウチの社長···小鳥遊音晴だよ」
誇らしげにそう言う万理を見て、安心するように微笑んで返す。
心も背中も広い、か···
そっか···そうだったよね、万理。
幸せな日常にボケてはいられないよね?
私も心にトゲを刺したまま、社長に声を掛けられたんだったから。