第1章 輝きの外側へ
全てを話す必要はないとは、思う。
だけど、私がここにいた事で万理に不自由が出来たら、困る。
数年振りに出会えた万理に、迷惑は掛けたくないから。
『実は私······一般人です』
小「ん?···と、言うのは?」
『数日前に、八乙女プロダクションを退職···しました』
退職、と言えば聞こえはいいけど、解雇、もしくはクビにされたと言えば怪訝な顔をされるのが怖かった。
小「そうか、それで一般人なのか···えぇっ?!それは引退?!」
『まぁ···そういう事になるのかと』
大袈裟なくらいに驚かれてしまうと、逆に私の方が急に冷静になってしまう。
小「どうしてまた引退なんて?確かに前と比べたらメディアへの露出は少なくなっていたけど、君はまだまだ頑張っていたんじゃないのかな?」
『そのつもり···ではいたんですけど。でも、私程度の頑張りじゃ、八乙女社長のお眼鏡には叶わなかったようで』
小「解雇されたと言うことか···」
『はい···ぁ···』
解雇という言葉を聞いて、つい返事をしてしまった。
小「やはり解雇か···こんなに急に引退なんて、そうとしか思えなかったしね。八乙女のやりそうな事だ」
その言葉を聞いて、なぜか私は本当の···本来の今日までの経緯を話したくなり、姿勢を正して話を聞いて貰うことにした。
辿たどしく話す私を、時折···万理は心配そうに見ていたけど、このままつまらない隠し事をして余計に万理に迷惑をかけてしまうくらいなら、いっそ全てを話して···また、ひとり立ち去ればいい。
そう、思ったから。
私が話す内容を、小鳥遊社長は真剣な眼差しで耳を傾け、相槌を打ち、時には励ましてくれて。
もし···こんな穏やかな社長の元で働いていたら、今頃は違った道を歩いていたのかも知れないとさえ思えた。
『···以上が今日この時までの全てです。なので、万理とは本当に何にもないし、ご心配おかけするような事もありません』
小「いや、その辺は心配なんてしていないよ。万理君だって誠実な大人の男だ。しかも有能事務員だし僕からの信頼も厚い」
それを聞いて安心した私は、それなら尚更···私はここにいたら迷惑だろうと考えた。