第1章 輝きの外側へ
小「大丈夫、気にしないで?それより、僕の方こそ急に来てしまって申し訳なかったね」
『あ、いえ···それは、』
大丈夫です、と言いかけた所にタイミングを狙ったかのようにピーッ!ピーッ!ピーッ!と電子音が響いた。
万「あ···炊飯器が」
小「炊飯器?」
万「朝食は和食に···と思って炊飯器仕掛けてたんです。あ、そうだ!もし宜しかったら社長もご一緒にいかがですか?」
ちょっと万理?!
小「いいのかい?···じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなぁ?万理くんはお料理上手だし、楽しみだなぁ」
ぜひそうして下さい!と言う万理の言葉の後に。
小「でも、ちょっと聞きたい事があるんだけど···いいかな?」
そう言って小鳥遊社長は私に向き直った。
···き、来た。
小「万理くんの手料理も楽しみだから、単刀直入に言うよ?···君は八乙女のところの···」
···バレてる。
『仰る通り、私は佐伯 愛聖···です』
小「やっぱりそうか。いやぁ、万理くんも隅に置けないなぁ!」
万「だから社長、それは誤解ですって」
小「それで、だ。スキャンダル的な事を誰より嫌う八乙女は、この事を知っているのかな?」
『それは···』
小さく俯き、息を飲む。
どこまで話していいんだろう。
昨日の夜、万理にそうしたように全てを話してしまうのは簡単だ。
だけどこの人は、私がこれまでお世話になった八乙女社長の···言わば商売敵、で。
『八乙女社長は、知らないです』
それだけを言うのが精一杯だった。
小「じゃ、このまま八乙女には秘密にしとこう」
『え?』
小「だって、こんなに可憐なお嬢さんが八乙女に怒られるのは僕も悲しいからね」
ニコリと笑って言う小鳥遊社長が、カップに口を付ける。
小「それとも、他に理由があるとか?」
ドクン···とひとつ、胸が鳴った。
急激に鼓動が早まり、喉が乾いていく。
思わず握り締めた手は、徐々に指先の色まで変わって行った。
万「···愛聖。ちょっと深呼吸、しようか」
白くなっていく私の手を包みながら、万理が顔を覗かせた。
小「何か、事情がありそうだね」
そう言った小鳥遊社長の顔は、さっきとは違って···真剣な眼差しで私を見ていた。
ひとつだけ深く呼吸して、私も視線を合わせた。