第1章 輝きの外側へ
万「いや、お邪魔っていうか···その、ですね···」
「いいんだよ、万理くん。君だって大人だし、不誠実な関係でなければ僕に気兼ねなく···ご、ごゆっくり」
言いながら改めて万理くんを見れば、彼が言っていたようにまだタオルドライの濡れた髪。
それに、立ちすくむ女性を見ても···明らかに本人の物ではないだろうサイズの大きなシャツ···
あれはきっと、万理くんの物だろう。
開けっ放しになっているドアから見えるベッドは···まぁ、うん···恐らく二人で休んだと思える痕跡。
「また出直すから気にせずに、ね?···じゃ、」
万「ま、待って下さい社長!誤解です!···とにかく中へどうぞ!」
背中を向けると後ろから手を引かれ玄関へと引き込まれ、万理くんにドアを閉められてしまった。
『万理、ゴメンね?それから私···どうしたらいい?』
万「何にも気にしなくていいよ、愛聖」
ん?愛聖?
いま万理くんは、愛聖と言ったか?
失礼だとは思いながらも、女性をよく見れば···寝起き状態の素顔ではあるけど見覚えはある。
彼女は確か、八乙女の所の···佐伯 愛聖じゃないか?
いやぁ、これは驚いたね。
まさか万理くんが八乙女プロダクション所属の彼女と···そういう関係だったなんて。
部屋の中へ通され、お互いにやや緊張気味に向かい合って座る。
万「すみません、これには色々と事情がありまして···どうぞ」
僕の前にコーヒーを出しながら万理くんが目を伏せる。
「ちょっと驚いたのは事実だけど、万理くんだって大人の男性だ。君達の関係に僕が意見する義務もないから大丈夫だよ」
万「だから、その···そうじゃなくてですね···」
珍しく歯切れの悪い万理くんを見ながらカップに口を付ける。
「それで、彼女はいま?」
僕が部屋に通された直後、隠れるように寝室へと姿を消してしまった女性の事を聞いてみる。
万「お待たせしてすみません···さすがにあの姿では、ちょっとアレなんで着替えを」
まぁ、そうだよね。
大人の男が二人もいる場所に、あの姿のままというのは彼女としても···だね。
「女性の支度は時間が必要だ。僕は大丈夫だからゆっくり支度させるといいよ」
そう言った直後、僕の背後でカチャリとドアが開く音がした。