第1章 輝きの外側へ
その指先の感触に、吐き気さえ覚える。
これは夢でもドラマ撮影でもない現実だ。
そう思ったら急に怖くなって、私は···その場から逃げた。
その数日後、私の行動が社長の耳に入り···言い訳をする暇も与えられず事務所をその場でクビになった。
私は、この体ひとつと、纏めるには少なすぎるカバンひとつの荷物を持って与えられていたマンションから出された。
帰る場所なんて、ない。
帰れる場所すら、ない。
···行く宛も···ない。
両親なんて、少し前に亡くしている。
私を待つ家なんて、どこにもない。
ため息ひとつ吐いて、私は部屋を後にした。
歩き出してしばらくしてから、遠くから足音が聞こえ私の腕を掴んだ。
『···龍?!』
月明かりの下その姿を見れば、同じ事務所で活動していた見慣れた姿。
なぜ、私を追って来たのか分からず、ただ名前だけが声に出た。
龍「姉鷺さんからさっき話を聞いたんだ。これから、どうするんだ?君は、帰る場所なんてなかったんじゃないのか?」
時々、いろんな話をしているうちに私の身の上話を聞いて貰っていた彼は、私が天涯孤独だと言うことも知っていた。
『帰る場所なんてないけど···でも、もうあの部屋には戻れないから』
龍「いま楽が社長と話をしてる。行く宛がないんなら、それが決まるまでオレか楽の部屋に···」
正直、ありがたいとは思った。
だけど···
『それは出来ないよ。私はクビになったんだよ?それに龍達は事務所の看板アーティストでしょ?そんな龍達に私がお世話になってるなんて社長が知ったら大変だから。気持ちだけ、受け取っておく···ありがとう』
龍「だけど!」
『楽にも伝えて?私なら大丈夫だから。行く宛ならあるの···だから、大丈夫』
いま出来る精一杯の笑顔を見せて、私はそう返した。
こんな時に、今まで培った演技力が役に立つなんて。
龍「愛聖···」
『楽と天にも伝えて!···仲良くしてくれてありがとうって!じゃ、行くね···バイバイ!』
私は龍の手を振り切り、煌めく都会の光へと駆け出した。
龍「待って愛聖!まだ話が!!」
最後くらい、笑って別れたい。
彼らは輝きの中の住人だから。
あんなヤツもいたなって、思い出に残してくれるだけでいいんだから。
さよなら、みんな···