第6章 BLESSED RAIN
『もちろんです。確かにあのドラマの俳優さんも素敵な方でしたけど、その人に引けを取らないくらい素敵だと思います。ただ···』
小「ただ?」
『万理と勝負するテリトリーが違うだけです。万理は万里の、社長は社長のテリトリーがあると思いますよ?それに私は父親の優しさという物を感じる事なく父を亡くしてしまっているので、甘えさせてくれていたのがお隣に住んでいた万理と、そこに出入りしていた千だったので、だから万理は今でも私に甘えさせてくれる関係を崩さないでいてくれるんだと思います』
忽然と万理が居なくなってしまってから、私が甘えを吐けるのは···千と、それから仲良くなった百ちゃんと。
···姉鷺さん。
主にその3人だったから。
小「八乙女には···甘えられなかった?」
『八乙女社長に、ですか?』
なんで急に八乙女社長の名前が···?と思って社長の顔を見れば、社長は何故か少し寂しそうに微笑んでいて。
『八乙女社長は、弱音を吐いて甘えたりしたら···きっと怒るんじゃないでしょうか。あ、でも···母さんのお葬式の後は、何も言わずにずっと側にいてくれたので、それが甘えさせてくれた事になるのかも···なんて』
母さんも早くに両親を亡くしていてひとりだったって言ってたし、父さんは···親戚がいるのかさえ、分からないから。
小「まぁ、彼はいつも···こわ~い顔してるから甘えたくても怖くて出来ないか」
まぁ、そうかも···と私も笑って、そこで話は終わった。
『社長?これからアイドリッシュセブンの事で人手が欲しい時は私にも声を掛けてくださいね?どんな事でも、お手伝いしますから。訳ありの私を無条件で受け入れてくれたみんなに、少しずつ恩返しがしたいから』
小「分かった。そういう時があったら、遠慮なく愛聖さんにもお手伝いをお願いするよ」
お願いします···と頭を下げて社長室を出る。
さて、と。
寮に戻る前に、まずやる事がひとつ。
さっきから何度も存在を主張して震えているポケットの中身を取り出し、着信相手の名前を確認する。
この鬼電はきっとまた千だろうと思いながら画面を見れば、そこには千ではない名前がいくつもの不在着信を告げていて。
これほどまでに掛けてくるなんて余程の急用なんだろうと思い、社長室からすぐの給湯室へと移動してかけ直す事にした。