第6章 BLESSED RAIN
『その作品のオーディション、私は何も知らされずに八乙女社長に連れて行かれて、直前になって控え室に放り込まれたんです』
小「えっ?!そうなの?!」
驚く社長に、大きく頷いてみせる。
『設定をまともに読む時間もなくて、オーディションの流れだけを叩き込んでぶっつけ本番で受けました。確か···課題とされた演技は、関係が終わってしまう恋人の部屋で5分間過ごせっていうのが審査でした』
小「5分間···結構長いね。それで、愛聖さんはどんな風に演じて過ごしたの?」
『ただ、膝を抱えて座っていただけです。もう修復出来ない恋人の部屋で何をしたらいいか分からないし、この時間が最後に過ごす時間だと思うと空間を感じていたいかな?って』
あの時の5分間は、凄く長かった気がしたのを覚えてる。
膝を抱えて座ったまま、どうして私はこのにいるんだろう。
なんの為にこんな事してるんだろうって思ったら泣けて来ちゃって涙を隠すように、体を丸めて小さくなって···そしたら今度は、そんな自分が可笑しくなって、つい、笑ってしまって。
笑いを堪え切れずにクスクスと笑いながら、そろそろ5分間かな?ってところで、このオーディションはきっと落とされる···仕方ない、また次があればそこで頑張ればいいやってもう1度小さく笑って、ドアから出るフリをした。
それをそのまま社長に話すと、社長は何かを考えるような仕草を見せてから私に視線を戻した。
小「可愛らしい彼女から、猟奇的な女性への変貌···か。僕は監督でも演出家でもないただの人間だけど、恐らくキミは与えられた時間の中で気付かないうちに隠された課題をクリアしていたんじゃないかな?」
『課題をクリア···どういうことですか?』
小「あのドラマは、ストーリーの中でどれだけ恋に狂わされてしまった女性が変化を遂げて行くかも見所だったハズだよ?実際に僕も前のめりになって見てた」
オーディションの裏側には、事実···いくつもの隠された課題はある。
控え室で待っている時の様子が既に審査対象となっていたり。
ドアを入った瞬間が、まさに審査だったりといろいろだ。
『社長がそんなに見てたって聞くと、頑張って撮影に参加させて貰って良かったと思えます』
私としては、本格的な台本を渡された時に内容に困惑したけど。