第5章 ヒカリの中へ
万「あ、愛聖ちゃん、ちょっとこっち来て?」
おいで?と手招きをされて、警戒しながらも近付いてみる。
万「熱が下がるまで手を繋いでいてくれてありがとう」
急に抱きしめられて体がビクッとした。
『にゃっ?!』
万「にゃっ?!って」
そう言ってお兄さんは、私をギュッと抱きしめたまま笑い続けた。
小「へぇ、そんな事があったんだ?それにしても小学生の女の子を抵抗なく抱きしめてお礼を言うなんて、万理くんも隅には置けないな」
『相手が子供だったからですよ、きっと。これが大人の女性なら、いくら万理でも警察呼ばれますって。だけど、それがきっかけになって万理とは仲良くなったんです』
小「じゃあ、もしかして愛聖さんの初恋って、万理くんだったり?」
初恋···
『なっ、ち、違っ!!』
小「慌てるところが怪しいなぁ」
『セクハラ発言ですよ社長!』
急に何を言い出すかと思ったら、社長は!
小「だって愛聖さんは今でも万理くんにギューってされると安心するんでしょ?それって、つまり···」
『だから違いますって!···だって他にも、そういう人いましたし』
初恋···っていう意味は当てはまらないけど。
小「え?他にもいたって言うのは?お付き合いしていた人がいたって解釈していいのかな?」
『違いますよ?だってその人は、八乙女社長ですもの』
だからそういう感情自体有り得ないし。
小「八乙女?!って、あの八乙女?!」
『あ、社長?一応言っておきますけど、八乙女社長はあくまでも社長ですからね?八乙女社長は、母さんが亡くなった時、ショックで動けなくて泣いてるだけしか出来なかった私の側に、一晩中···ずっと寄り添っていてくれたんです。たくさんお仕事して、早く母さんを楽にしてあげようって思ってたのに、母さんは···』
最後の母さんの微笑みを思い出して、言葉に詰まってしまう。
もう、ほとんど言葉にはならない呼吸をしながら母さんが私に手を伸ばして来て。
その手を握り返す間もなく、逝ってしまって。
母さんが息を引き取った日の事を思い出すと、まだ···ダメだな、私。
こんなにも、ひとりが寂しいと思ってしまう。
小「そんな顔しないって、さっき僕と約束しなかったっけ?愛聖さん、キミはひとりなんかじゃないよ?」