第5章 ヒカリの中へ
『でもね、社長。この話には続きがあって···その日から3日くらい、万理の姿を見ない日が続いて···学校から帰って来た私に、母さんが言ったんです』
「愛聖、ちょっとお隣の万理くんの所にご飯持って行ける?母さん万理くんの洗濯物干しちゃいたいから」
『お兄さんの家に?なんで?』
ご飯持って行くのも変だけど、なんで母さんがお兄さんの洗濯物してるの?
『母さん、お兄さんと結婚するの?』
「ば~か。母さんが万理くんと結婚するわけないでしょ?···万理くん、熱出しちゃって寝込んでんのよ。この前あんたと一緒に外にずっといたから」
えっ?!
『だって、平気って言ってたのに』
「あの時、既に風邪気味だったみたいよ?なのにずっと外にいたから悪化しちゃったのね···ほら、とにかくお粥炊いたから薬と一緒に届けてあげなさい?鍵は開いてるから、静かに入るのよ?」
トレーにお粥の鍋と卵焼き、それから梅干しとかを用意され持たされる。
母さんが洗濯カゴに移すお兄さんの服を見れば、それは私がこの前使った物ばかりで···
お兄さんがその日の夜から熱出してたのかも知れないと、心が痛かった。
母さんに言われたように、そっとドアを開けて中に入る。
お兄さんの部屋は凄く綺麗に片付けられていて、部屋の隅にはギターが数本置いてあった。
お兄さん、歌手とかになりたいのかな?
自分が大きくなったら女優さんになりたいと夢を見ていたせいか、そんなお兄さんに···少しだけ親近感がわいた。
『ご飯持って来たけど、どうすればいいんだろ···置いとけばいいのかな?でも、テーブルはなんか大事そうな物があるし』
テーブルの上には五線譜の上に音符や文字が書かれた物が並べられ、勝手に触ると怒られるかも知れないと立ち尽くしてた。
他に置き場所も見つからなかったから、とりあえずキッチンにトレーを置いて、もう1つある部屋のドアをそうっと開けてみる。
···寝てる?
シンプルなベッドが置かれた部屋に、少し苦しそうな呼吸をしながらお兄さんが寝ていた。
ドアを閉めてしまおうかと思ったけど、この熱が自分のせいだと思うとそれも出来ず、足音を立てないように近付いて頭のタオルを触ってみればホカホカになってて。
そのタオルを濡らし直して、また乗せてあげた。