第5章 ヒカリの中へ
簡単な打ち合わせを終えて、社長と2人で寮までの道を歩く。
その間は、社長から私の子供の頃の話を聞かれては答えていく、という会話で盛り上がりながら歩いていた。
小「なるほど···じゃあ万理くんに初めて会ったのがその頃だったんだね」
『そうですね。最初は隣に引越してきたお兄さんが物珍しくて、万理がせっかく挨拶してくれても恥ずかしくて走って逃げたりとかしてました』
ごみ捨ての時に会ったり、学校行く時や帰りに会う度に、万理はおはよう!とか、行ってらっしゃい!とか、おかえり!とか。
なのに、物心着いた時から母さんと2人で生活してたから、なんかちょっとだけ警戒しちゃったりもして。
それまでは、父さんと同じ位の年の···顔も名前も思い出せない男の人と、その人が連れて来て一緒に遊んだお兄ちゃん位しか話したことなかったし。
でも、母さんは早い段階で万理と顔馴染みになって仲良くしてたけど、それはそれで母さんを万理に取られた感があって。
『そんな時に、私、学校に行く時に鍵を持って出るのを忘れてしまって』
小「鍵って、家の?」
『はい、子供の頃の私は鍵っ子だったんで。それで母さんが帰って来るまでは仕方ないって、家の前でランドセル抱えて座ってたんですけど···そしたらバイトから帰って来た万理に声を掛けられて』
万「あれ、どうしたの?」
また隣のお兄さんだ···
『別になんでもない』
万「なんでもないなら、どうしてこんな所で座ってるの?」
『そ、それはいいの!なんでもないんだから!』
鍵がなくて家に入れないとか言ったら、きっとバカだと思われるから言えない。
抱えたランドセルをギュッと抱きしめ、顔を背けた。
万「あのさ?前からずっと思ってたんだけど···もしかして俺のこと、嫌い?」
嫌いとか、そういうんじゃないよ。
なんか、恥ずかしいだけ。
顔を背けたまま、首だけを横に振って答える。
万「じゃあ···怖いとか?」
それも違う、怖いわけじゃない。
万「う~ん···参ったな···」
何も言わずに首だけを振って答える私に、万理が困ってたっけ。
小「鍵がなくて家に入れないなら、お兄さんの家に来る?とか言われたの?危ないなぁ、万理くん」
私の話を聞きながら、社長が笑う。
『と、思いますよね普通』