第5章 ヒカリの中へ
どうしてか拗ねてる様子の楽を見ながら手荷物を簡単に纏めると社長に電話が入り、ちょっとごめんね···と言いながら部屋を出て行ってしまった。
『え···っと、コーヒーでも入れるよ。インスタントだけど、それでも良ければ』
龍「俺も手伝うよ」
大丈夫だよ?と言うまでもなく龍が隣に立ち、紙コップを人数分並べ始める。
『龍はブラックでいいんだよね?楽と天はどうする?』
コーヒーの瓶を見せながら振り返れば、天はチラッと視線だけ寄越して、ミルクは入れてと返事をくれた。
『楽は?』
楽「俺はそのままでいい」
『そのままって、粉?』
楽「なんでそうなるんだよ!お湯も入れろ」
『やっぱり?···なんて、分かってたけど』
お前な···とあきれた顔を見せる楽に笑って返して、コーヒーがそのまま飲めるとか大人だな···と瓶をフタに手をかけた。
···けど?
『あれ?開かない···』
どんなに力を入れてフタを回そうとしてもビクともしないフタに眉を寄せた。
龍「貸して?俺が開けるよ···ほら、開いた」
『凄い!あんなに頑張っても開かなかったのに龍って凄いね!』
楽「そんなもん、男なら誰でも簡単に開けられんだろ」
天「楽。龍に対抗心出さないで」
楽「出してねぇよ!」
いつも通りのやり取りに笑いながら、スプーンでコーヒーを入れ分けて、お湯を入れて貰う為にカップを龍に渡していく。
『粉の量、大丈夫だった?濃い?薄い?』
スプーンでかき混ぜていく龍に聞けば、そのスプーンでコーヒーを救って龍が味を見る。
龍「大丈夫、ちょうどいい感じだよ?···愛聖も味見してみる?」
『え、だってブラックって苦いし···』
龍「味見程度なら平気だよ···ほら?」
同じようにスプーンで掬って差し出され、断りきれずに口を付けた。
『龍···ほんのちょっとでも苦いよ』
口の中に広がる大人の味に顔を顰めれば、それを見て龍は笑った。
『だって私、普段ミルクとお砂糖いっぱい入れてるんだよ?ほら、こんな感じ』
龍の手からスプーンを取り、自分のを掬ってフゥっと冷ましてから差し出す。
龍「どれどれ?···あ~、うん···凄い甘い。これはもはやコーヒーじゃないくらい甘いよ」
『他の人に前にも同じこと言われたことあるけど、私にはこれでちょうどいいのです』