第5章 ヒカリの中へ
こんな時に絡まなくても···と眉を寄せ、それならファスナーの手元がよく見えるようにボクに張り付いてて?と体をくっつけさせた。
漸くファスナーの生地噛みを直し、あとはこっちか···と愛聖を見下ろせば、予想外の距離の近さにたじろぎ目を逸らす。
張り付いててって言ったのはボクだけどさ。
ちょっと近過ぎなんじゃない?
ため息を吐きながら正面にある鏡に目を移せば、ファスナーを下ろした為に晒されている愛聖の背中が目に入り、思わずドキリとする。
鏡越しにでも分かるキメ細かい肌に吸い寄せられるように指先でそっと触れれば、その滑らかな感触を楽しむように何度も撫でた。
『んっ···』
至近距離から聞こえる声に呆れるように息を吐く。
「ちょっと。急に変な声出さないで」
『だって、くすぐったいんだもん···』
「だからってそんな声···ま、いいや。」
こんな体制で何を言っても仕方ない。
そう思いながら、シャツのボタンに絡んだ愛聖の髪を解いていった。
「はい、取れた」
『ありがとう、天。いろいろごめんね』
絡まりは全部取れたのに体制はまだ変わらない愛聖がボクを見上げる。
「ホント、感謝してよね。これがボクじゃなかったら、飢えたオオカミに美味しく頂かれてるよ」
チラ···とカーテンの向こうに目をやって言えば、愛聖は笑い出した。
『大丈夫なんじゃない?だって、私ってなぁ~んにも魅力ないんでしょ?』
楽しそうに笑う愛聖になんとなくムッとする。
「それって、ボクを安全圏だと思ってるってコト?」
『だって、さっき天が言ったんだよ?』
ふ~ん···?
「愛聖···こっち向いて?」
なんの疑問も持たずにボクを見上げる愛聖の顔に手を添え、その鼻先にキスを落とす。
『て、天?!』
ほら、慌てるんじゃん。
「これはお仕置きのひとつね。続きはまた今度にしとく···楽しみはたくさんある方がいいでしょ?」
フッと笑って、踵を返す。
いまのは、さっきボクをドキドキさせた罰だよ。
だから、恒例のお説教コースは今度にしてあげる。
ボクだって、楽や龍と同じ男だよ?
カーテンをくぐる前に振り返り、まだ鼻先を押さえて固まっている愛聖を見て···クスリと笑った。