第5章 ヒカリの中へ
姉「戻りました···って愛聖、電話出来るくらい回復したのね?」
楽からの電話を切った後に戻って来た姉鷺さんが私を見てニコリと笑う。
『楽からだったんで···』
八「楽だと?」
『あ、はい···急用ではない様でしたけど』
楽の名前を聞いた八乙女社長が眉を寄せるのを見て、特別な用事があった訳じゃないみたいだと言えば、八乙女社長は無言でカップに口を付けた。
姉「あら、あの子達ったら仕事が早く終わったのかしら?さすが、出来る子達ね!あ、そうだ···社長、これはもう渡しても?」
八「···好きにしろ」
姉「お許しが出たから···はい、愛聖」
姉鷺さんが私に手渡す箱には見覚えがあって···思わず八乙女社長を振り返った。
『これは···?』
八「知らん···姉鷺、帰るぞ」
姉「あ、お待ち下さい社長!···もぅ···じゃあね、愛聖。今度こそ、次に会う時は敵同士よ?」
パチン!とウインクをして笑う姉鷺さんに私も笑い返すと、姉鷺さんは小鳥遊社長とも挨拶を交わして慌しくドアから出て行った。
手元には、姉鷺さんから渡された···洋菓子店の箱。
中身なんて見なくても分かる···けど、そっと箱のフタを開いてみる。
小「へぇ···あの八乙女がケーキをねぇ」
ひょこっと顔を覗かせる社長に美味しそうでしょ?と笑って、またフタを閉じた。
『このケーキは···私が八乙女プロダクションと契約を交わした時に出された物なんです。その時に美味しいって言ったら、八乙女社長が何かある度に用意してくれて···』
誕生日の時も、リリースした曲がランキングに入った時も、ドラマや映画が···撮り終わった時も。
いつも、いつも···事務所に帰ると姉鷺さんから渡されて。
『大好きなんです、このケーキ。いろんな思い出が詰まってて···母の、手作りケーキの次に』
母さんのはもう···どんなに頑張っても、食べる事は出来ないけど···
小「それじゃ、僕もご褒美あげられるくらい···たっくさん仕事取って来ないとね?明日からバリバリ頑張るぞー!そしたら僕もご褒美貰えるかな??」
大げさに両腕を回して言う社長を見て、それがおかしくて笑ってしまう。
小「あ、笑ったね?明日から万理くんが嘆くほど電話が鳴り止まないかも知れないのに」
『すみません、つい···』