第5章 ヒカリの中へ
❁❁❁ 小鳥遊音晴side ❁❁❁
万理くんに連絡をして控え室に戻れば、まだソファーに凭れるようにして体を休める愛聖さんがいて。
その側には、八乙女が付き添って顔を覗いていた。
「留守を頼んで悪かったね、八乙女」
八「フン···別に何をしていた訳でもないから礼を言われる事もない」
そうは言うけど、そんな風に側から離れず様子を見てるキミは···父親そのものじゃないか。
きっと愛聖さんに何かある度に、そうやって看病したり、面倒を見て来たんだね···八乙女は。
娘の体を心配して···なんて言うのは、僕にも経験があるから隠そうとしたって分かるよ。
『すみませんでした···なんか、いろいろご迷惑をお掛けしてしまって。もう、大丈夫ですから』
八「まだ顔色が悪い。姉鷺が戻るまでそこに転がっているんだな」
またそんな言い方をして。
「そう言えば、彼女はいまどこに?」
さっき僕と入れ違いで彼女が出て行ったけど···
八「姉鷺はいま、使いに出している。じきに戻るだろう」
「そう。じゃあ僕はコーヒーでも入れようかな?八乙女も飲む?」
カップを出しながら八乙女を見れば、チラリと視線だけを寄越す。
···飲むね。
言葉数が少なくても、付き合いの長さから察する。
『それなら私が』
八「佐伯 愛聖」
『っ、はい!あ···すみません···』
八乙女に名前を呼ばれ、条件反射のように急に起き上がった愛聖さんがフラリと傾くのを八乙女が支える。
八「そんな状態で動き回って粗相を繰り返すんじゃない···分かったか」
まったく···八乙女、キミって人は。
八「佐伯 愛聖、返事はどうした」
『···はい、分かりました』
八乙女。
キミはそうやって愛聖さんをフルネームで呼んで、自分を遠ざけて来たんだね?
彼女の、本当の父親であると言う事を隠す為に。
八「小鳥遊···何を笑っている」
「別に?···八乙女はブラックでいいんだったよね?」
八「あぁ」
「こんな苦いのばっかり飲んでるから、眉間に深~いシワが寄っちゃうんじゃない?···今みたいに、なんてね?」
八「黙れ、小鳥遊」
更にシワを深く刻む八乙女を見てクスクスと笑いながら、香り立つカップに口をつけた。